サンタクロースは君だった
* * *

「じゃあ、行ってきます。」
「うん、いってらっしゃい。」

 他愛もない挨拶。これがむず痒くって、何だか少しだけ恥ずかしい。しかし、自分が出るときにレオがいれば今のところは必ずこうして玄関まで見送ってくれるし、レオが出ていくときには自分もこうして送り出してしまう。

「ひかりちゃんの帰りを楽しみに待ってます!」
「え、今日お仕事は…?」
「昨日頑張ったのは今日を空けるため!夕飯は任せておいてね。」
「…そういうことか…。ありがとう。楽しみにしてるね。行ってきます。」

 ひかりはくるりと背を向けた。いつもはそのままバタンと閉まるドア。しかし今日は違った。手が引かれ、後ろからぎゅっと抱きしめられた。突然のことに一瞬、足元がぐらついた。

「れっ…レオく…?」
「…ごめん、ちょっと離したくないって思っちゃった。あと5秒。」

 耳元で響く、少し甘えた声。こんな声をいつでも出せてしまうのだからずるい。そして羨ましい。レオを見送る時に感じるちょっとした切なさを、レオも感じてくれているのだろうか。だとすれば、こうやってもし表現することができたときに(多分無理だけれども)レオは喜んでくれるのだろうかなんてことを考えてしまう。

「はい、5秒経った。…ほんとのほんとに、行ってらっしゃい。」
「う、うん。行ってきます。」

 後ろを振り返ることはできなかった。とてもじゃないが、今は振り返ることができない。合わせる顔をあんな短時間で準備できるはずがない。

* * *

 ドアが閉まる。レオは残ったひかりの香りを抱きしめたくて、代わりに玄関のドアに背をもたれ、ずるずるとしゃがみこんだ。

「…幸福指数が高すぎる…。」

 目を合わせる、手を繋ぐ、額を重ねる、抱きしめる。少しずつ重ねてきた、触れあう時間。その一つ一つが愛おしい。その感情がまた一つ、音に変わる。

「さて、出かける準備っと。」

 引き取りに行かなくてはならない。ひかりの誕生日プレゼントを。
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