サンタクロースは君だった
* * *

「これ、お願いします。」
「ありがとうござ…え…?」

 二人が休憩中(大塚はトイレ)で良かった。薄手のニット帽に黒縁眼鏡をかけた目の前のその人は。

「レオくん!?」
「今日あとちょっとであがりでしょ?一緒に帰ろうと思って。」
「め、目立つよ…!」
「大丈夫。世間の注目度も下がってるし。」
「と、とりあえずお会計。…2点で1892円になります。」
「はい。お願いします。」
「2000円、お預かりします。108円のお返しです。」

 お釣りを返すときにそっと添える手。にっこりと微笑むレオに、ひかりの頬は熱くなった。

「え、えっと、何か変…?」
「全然?可愛いなぁって。じゃあ、待ってるね。車で来たから3階の駐車場にいるよ。」
「わ、わかった!急いで着替えるね。」
「うん。」

 なんだか不思議なこそばゆさがまとわりついて離れない。客と店員という立場で関わったことが今までなかったからともとれるけれど、それだけではない気もした。

(…可愛い…って、さらって言うよね、レオくん。)

 嬉しいけれど、その言葉に見合う可愛さを提供できているのかいつも不安だ。

「休憩ありがとうございました。レジ代わります。」
「あ、うん。お願いします。お疲れ様でした。」
「店長、あがりの時間ですね。お疲れ様でした。」

 バカみたいだなと、自分でも思う。それでも不思議なくらい足取りが軽い。
 控室に戻り、さっと着替える。鏡を見て少しだけ化粧を直してみる。

「よしっ!お仕事終わり!」

 レオの待つ、駐車場へ。3階までの足取りの軽さは、仕事後とは思えない。

「あ、お疲れ様、ひかりちゃん!」
「レオくん!」

 軽く手を振る、その距離のもどかしさも気恥ずかしさもむず痒くって仕方がない。それでもそうせずにはいられないのはそれが『恋』のなせる業だからなのだろう。
< 54 / 91 >

この作品をシェア

pagetop