サンタクロースは君だった
* * *

5.18 午前10時

「おい、お前、5月末にはコレが記事として世の中に出るぞ。」
「あー…それね。知ってるよ。今対策を考えてるんだ。」
「は?お前なんでこんな冷静で…?」
「実弥が心配してくれてるから呼び出されたんだなーとは最初から思ってたよ。ありがと。この業界で今僕を心配してくれてるのは実弥と修さんくらいなもんだよ。」
「修さんってあれ、テレビ局の局長だっけ?」
「そうそう。音楽番組でよくお世話になってて、今でも色々声掛けてくれる。この世界のお父さんって感じ。」
「…って、そんな話はいいんだよ。それでこの話、ひかりさんにはするのかよ。」

 ひかりが聞いたら、自分のせいだと自分を責めるだろう。そんな姿が脳裏に浮かんで、とてもじゃないがそんなことをできるはずがなかった。

「ひかりちゃんにはしないよ。しなくたって、知ることになるだろうから。問題はひかりちゃんの身の安全なんだよね。この記事、全部が嘘ってわけじゃないんだよ。」

 嘘だけが載っているわけじゃない。一緒に暮らしていることは事実だ。しかし、結婚間近な相手でもなければ、彼女の存在が自分を芸能界引退に追い込んだ理由ではない。よくもまあ、そんな嘘の見出しをつけられたもんだと苦笑するしかなかった。そもそも、追い込まれたから辞めたわけじゃない。

「写真から察するにひかりちゃんもマークされちゃってるかなぁ。そうしたら少し不便だけど、ひかりちゃんにはしばらくの間マンスリーマンションにでも引っ越してもらった方が安全かな。」
「おいおい待て。お前はどうなる?」
「んー…しばらく帰れないかな、この記事出たらうるさくなるよねきっと。でもなぁ、ひかりちゃんに引っ越してってお願いするのもなぁ。忙しい人だし、大変だし。多分しばらく僕、手伝えないし。」
「差し止められないのかよ。」
「…芸能人だって一個人である、ということは忘れられている社会だから。きっと無理だし、今の僕には差し止める財力もなければコネもない。あまりに無力だよ。」

 今の自分の状況なら、ちゃんとわかっている。
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