サンタクロースは君だった
* * *

「この場所で出会って、この場所でたくさんの時間を過ごした。あの頃の僕にとって、ひかりちゃんと過ごす時間だけが幸せだった。僕が引っ越したのは、両親が離婚したから。母はドイツへ帰り、僕は父に育てられた。ずっとずっと、ひかりちゃんにもう一度会いたいという気持ちが消えなかった。ありがとうとか、またねとか、最後の日ってわかってたけど、僕は言えなかったから。」
「…レオ…くん…。」

 いつものレオじゃないみたいだった。真っ直ぐな目は変わらないけれど、どこか視点のずれた感じにも思えた。同じものを見て、笑っていた日々が少しだけ遠く感じられる。

「ひかりちゃんが僕の歌をたくさん好きだと言ってくれたから、僕は歌を本気でやってみようと思えた。いつか歌を続けていて、僕が有名になったらもう一度ひかりちゃんに会えるかもしれないって思ったから。」
「っ…。」

 泣かない方が無理だった。ひかりは両手で顔を覆った。

「…ごめんね、昔話に付き合わせて。泣かせたかったわけでも、なんでもなかったんだ。ただ、ひかりちゃんには本当のことが言いたかった。直接、僕の口から。」
「…ご、ごめんね…泣くつもり…なかったの…。」

 それ以上は言葉にならなかった。もう一度会えたのは、ただの偶然なんかじゃない。レオの努力なくして、今ひかりが手にしている幸せな日々は有り得なかった。レオにつりあわないだとか、そんなことを考えて立ち止まっている場合じゃなかった。レオはいつだって真っ直ぐにひかりを見つめていてくれたのに。

「好きだよ、ひかりちゃん。僕は歌うことよりも、曲を作ることよりもひかりちゃんのことが好きだ。そしてそれはこの先もずっと、変わらない。」

 レオがひかりの腕を引いた。そっと頬に伝わったのは、唇の温さだった。名残惜しそうに離れたレオの唇に、ひかりはただ顔の熱を上げることしかできない。

「レオく…。」
「ひかりちゃんを好きになれて、よかった。僕はいつも、心からそう思ってる。僕にないものはね、ひかりちゃん、君だけだよ。」

 すっと繋がれた手。

「帰ろうか。って言っても今日この後仕事で…だから駅までしか一緒に行けないんだけど。」

 駅までは無言だった。
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