サンタクロースは君だった
「ごめんね、付き合わせるだけ付き合わせてバイバイしちゃうなんて。」
「う、ううん。大丈夫。私は来慣れてるし…。それよりも…大事な話をしてくれて、ありがとう。」
「…結局泣かせちゃっただけだったね。それもごめんね。」
「…勝手に泣いただけだから。…大丈夫。」

 思い出の場所、蘇る記憶。あの時語られることのなかった、レオの想い。きっと、今日聞いた分が全てではないだろうけれど、それでもレオの口から聞けて良かったと思う。そして、その想いに見合うだけの想いを返したい。

「レ、レオくん。」
「ん、なぁに?ひかりちゃん。」
「レオくんの誕生日の、6月3日は…私、頑張るから。」
「え?」
「そのっ…私の誕生日、たくさん祝ってくれたから…ちゃんとお返しがしたいっていうか…。」

 頑張りたい。自分の気持ちを伝えることができるように。そして向き合いたい。優しいあなたに、誠意をもって。

「…うん。…ありがと、楽しみにしてるよ。」
「うん。」
「あ、もう電車くるっぽいよ。行って?」
「レオくんは…?」
「僕はここに迎えに来るんだって、向こうの方から。」
「そ、そうなんだ。お仕事、頑張ってね。」
「うん。ひかりちゃんも、あんまり無理しないでね。」
「それは絶対レオくんの方ですから!無理しちゃだめだよ。」
「…わかってるよ。」
「じゃあ、おやすみなさい。お家で待ってます。」
「うん。おやすみ、ひかりちゃん。」

 ひかりはレオにくるりと背を向けた。そして階段を上ってホームへと向かっていく。
 レオは改札前の柱に背を預けた。深いため息をついて、目を左手で覆う。

「きっついなー…これ。」

 仕事など、ない。迎えになど、来ない。そして自分の誕生日に会う約束。それすら、果たせるのかわからない。
 無理しないでというひかりの優しさも、今は真っすぐに受け取れない。きっと無理をしなければ、耐えられない。

「本当は嫌だけど、でも少しの間だけ『サヨナラ』だね、ひかりちゃん。」
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