サンタクロースは君だった
* * *

 残り物を丁寧にきちんとたいらげ、後片付けまで手伝って、レオはまた優しく笑う。

「すごく美味しかった。手作りってこういう味なんだね。…忘れてたよ。」
「え?」
「…すごく美味しかった。本当に。」

 独り言みたいに静かに落ちたその言葉に、胸の奥が痛くなる。どうしてレオはいなくなってしまったのか、曖昧でよく思い出せない。

「こ、これからどうする…んですか?」
「そうだね。年が明けたら活動するよ。新曲作ってほしいっていうオファーがありがたいことに数件あるから。」
「そう、なんですね。」

 どこか遠くを見るような一瞬の眼差しが、焼き付いて離れない。あんなに優しく笑うくせに、いつだって紡ぐ詞は切なかった。

「じゃあ、今日はありがとう。こうして会えて、目を合わせて話をすることができて嬉しかった。ひかりちゃんが来たくなったらいつでも来て。」

 すっと立ち上がるその背中が、突然小さく見えた。バカなことだってわかっている。それでも、人生で最大の勇気を振り絞って手を伸ばした。ひかりの手が、レオの服の裾を引いた。

「…え…?」

 とんでもないことをしているのはわかっている。それでも、このまま行かせてしまっちゃダメな気がした。

「ひかり…ちゃん?」
「…ち、中途半端な態度で…ごめんなさい。き、気持ちにすぐに応えてあげられないし、何ができるわけでもないけど…でも…。」

 空いている左手をきゅっと握った。勇気を出してほしいと自分に願ったことは何度もある。でもその度に出さなかった自分と決別するなら、今がいい。

「…お家に、お邪魔してもいいですか。」
「…っ…ほ、ほんとに?」

 顔を上げられない。ひかりは首を縦に振って答える。

「…ご飯も、毎日作ってあげられない…けど、でもできるときはやるし、お仕事の邪魔しません。」
「そんな邪魔なんて…。でもなんで…?」
「一瞬、すごく寂しそうな顔、したから…。」

 その顔を見たことがある気がする。そしてそれが、自分はとても辛かった。その顔を笑顔にしてあげることのできない自分がもどかしかった。
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