サンタクロースは君だった
『彼女は僕の唯一の光です。』

 涙でテレビの画面が見えなかった。だから余計クリアに、レオの声が聞こえる。

『光に出会ってしまった僕はもう、我儘で傲慢な人間になってしまったんです。彼女が僕の曲を好きだと言ってくれるから曲が作りたくて、その曲は一番に彼女に聴かせたくて。そして、彼女の前じゃないと最高のパフォーマンスはできない。こんなのプロじゃない。だから代わりに、僕の曲を歌ってくれる人がいることをとても嬉しく思っています。彼女を知れば知るほど、僕の音楽の幅は広がっていますから。その曲を僕よりもうまく表現してくれる人が、この世にはたくさんいます。それが嬉しいし、僕の曲が僕の手から離れていくことも不思議と悲しくないです。案外、今の仕事の方が向いていたのかもしれないなって思っています。今更ですが。』
『…お話伺ってて、ますますファンになってしまったので…引退はやはり寂しく思ってしまうのですが…。僕のようなファンも多分いっぱいいるんじゃないかと…。』
『あはは、ありがとうございます。そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったから、とても嬉しいです。ありがとうございます。曲の中に僕がいますよ。多分、今後発表していく曲は今までの冬木レオンっぽくないものも増えてくるんじゃないかなって思います。今、何か前とは違うなってそんな感じもしてますし。』
『どのようなところが違うんですか?』
『…言葉にするのは難しいんですけど、…なんていうか、一方通行じゃなくなったっていうか…。少し幸せに近付いたというか。』
『なるほど。それはご自身の生活が順調だから、ということですよね。』
『そうですね。彼女が当たり前のように優しさを向けてくれるからだと思います。』
『…では、やはりライブの復活などは期待できない…ですかね。』
『当面は考えていません。正直本当に彼女のことで頭がいっぱいなんです。情けないくらい。もちろん仕事は仕事でしていますが。…多分10年思い続けた反動が今来てるんだと思います。もし、仮に…結婚した、とかになった場合はあり得るかもしれませんね。』
『結婚、ですか?』
『あ、すぐにってことじゃないって意味です。冒頭でもお話しした通り付き合ってない、僕の完全なる片想いなので。でももし、結婚ってことになったらさすがに僕も精神的に落ち着いていると思うし、その時はちゃんとプロとして割り切って仕事ができるのかもしれないなって思います。まぁその時までお客さんたちが僕の歌を聴きたいって思ってくれていればの話です。今回こんな騒動にもなってしまいましたし、そもそもとても身勝手な理由で入った芸能界を、とても身勝手な理由で辞めた人間です。僕が歌いたいから戻るという場所でもないと思います。落ち着いた頃に、路上ライブとかでも始めてみたら面白いかもしれません。でも全部、今思い付きで話してるだけで全然、現実味のない話です。現実としては、とても日々充実していますということくらいしか言えません。』
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