伯爵家の四姉妹
悪い噂
コーデリアと共にウェルズ侯爵家のお茶会に出かけたルナは、ルシアンナに良からぬ噂があると、マリアンナにこそっと聞かされた。
「レディ ルシアンナがすでに純潔ではないとか…」
「まさかっ!」
「弟が聞かされたそうなの」
マリアンナの弟のブライスは、ルシアンナの求愛者の一人であった。
ルシアンナは確かに色々な男性と親しくはしていたが、そこまで軽率ではない。レディにとっては最低な噂だった。
「幸い女性たちにはあまりひろまっていないようだけれど、心配だわ。わたくしもレディ ルシアンナはそんな事はないとブライスから聞いて思っているもの」
「教えて下さりありがとうございました、レディ マリアンナ」
その日、ルナは迷った末に晩餐会の為に週末のみ帰宅したラファエルに相談することにした。
「ラファエルお兄様ちょっといい?」
部屋で勉強中だったラファエルが振り返り、いいよと応じた。
ルナに座らせ、自分は行儀悪く椅子に反対向きに座ると、
「ちなみにさ、ラファエルって呼ぶのはやめて。レイフにして」
ラファエルは、名前があまり気にくわないようだ。
ぴったりだとルナは思ったが、男にはそういう沽券があるのだろう。
「わかったわレイフお兄様」
「で、なに?改まって」
ルナは躊躇ったが
「あのね、レディ マリアンナが教えて下さったのだけれど、ルシアンナに噂があるそうなの」
「…どんな?」
怖い表情になるラファエルにルナは
「怒らないで聞いてほしいの」
「…わかった。出来るだけ努力しよう」
心配しつつもルナは
「あの…ルシアンナがすでに純潔でないとか…」
ラファエルは音をたてて立ち上がると、
「なんだと!」
「だから怒らないでって」
「怒らずにいられるかっ!」
ルナはびくりとしたが、ラファエルの緑の瞳は怒りに爛々として、いつもの飄々としたラファエルはすっかり成りを潜めた。
「どこにいくの!」
そのまま部屋を飛び出したラファエルは返事もせずに、どこかに行ってしまった。
「ああ、どうしよう!」
ルナは廊下に出たものの、うろうろとしてしまった。
階下に降りても対処のしようが全くわからない。
「ラファエルはどこにいったかわかる?」
執事のアントンに聞いても、
「いいえ、困ったことにさっぱりわかりません」
「どうしよう!」
ルナは外に飛び出したがどこにもラファエルの姿が見えるはずもなく。
ちょうどブロンテ邸に馬でやって来た、フェリクスとキース、アルバートにラファエルの事を話した。理由は詳しくは告げずに…。
「なんだって?」
3人はこそっと話し合ったが、
「まだ時間はあるな、私たちが探しにいこう、ルナは屋敷で待っているといい」
フェリクスがルナを屋敷まで押し込むと、そのまま馬をかけていった。
心配していたが、ルシアンナの事を母はもちろん、ステファニーとルシアンナには言えず
「レオノーラお姉様!」
レオノーラが苦行のドレスを身に付けているところに駆け込んだ。
「お姉様、私間違ったことをしたのかもしれない」
「どうしたの?ルナ。落ち着いて話して?」
レオノーラは、メイドたちを下がらせると、ルナの話を聞いた。
「わかった、でもルナ。あの3人が任せろと言ったなら信じて待てばいい。ルナも支度をしておいで、その方が帰って来た彼らもいいだろうしね」
にっこりと微笑まれて、ルナは安心した。
「私も、この格好でなければ一緒に行ったのにな…」
「…レオノーラお姉様…?」
ん?と微笑まれて、ルナはレオノーラも兄と同類かと、ぞくりとした。
ルナが身支度を終えて、階下でいるとアデリンがやって来た。
「ルナ!来たわ」
にこにこと微笑むアデリンは可愛らしく、アルマンとリリアナに挨拶をした。
「またルーファスがルナに会いたいってごねてるんですって。また一緒に遊びに行ってくれる?」
「もちろん構わないわ!」
ルナはルーファスを思い出し、すぐにでも会いに行きたくなった。
「旦那様!」
珍しくアントンが慌てたように、やって来た
「ラファエル様が…!」
ルナは慌てて立ち上がったが、レオノーラの方がいち早く玄関ホールに向かった。
ラファエルは、乱れ汚れたひどい格好だったし、アルバートも血がついたり、痣があった。ラファエルを両側から支えたフェリクスとキースも乱れきっていた。
「このような姿で申し訳ない伯爵」
フェリクスが苦笑しながら言った。
「すぐに手当てと着替えを用意させよう」
執事とビアンカが慌てて準備に駆け出し、
「で、勝ったのかラファエル」
「当たり前だ、一人じゃ無理だったけど加勢が恐ろしく強かった向こうの方はボロボロさ」
とニヤリと笑って見せた
「それなら良い。助力に感謝します」
アルマンも笑って、彼らをみた。
レオノーラは
「ラファエル、よくやった」
と拳を合わせた
「しかし、レイフ。どこのどいつだか後できっちりと教えてもらわないと、私もきっちりとお礼がしたいからね」
と美しい笑みを浮かべたが、レオノーラの瞳は危険な光を湛えていてルナは恐ろしく怖かった。
予定より遅れてはじまった晩餐会は、うってかわって和やかで
アルマンとフェリクスやキースは積極的に話していたし、アルバートとラファエルは喧嘩仲間となり一気に打ち解けた様で、笑いながら話をしていた。
「ねぇ、ルナ。ラファエル様ってレオノーラ様にそっくりね!」
アデリンは顔に傷の出来たが、綺麗な顔のラファエルを見て言ってきた。
「そうでしょう?性格も似てると思うの」
くすくすとルナは笑った。
「父上、フェリクス卿はすごく強い!一撃で倒したんだ」
とラファエルがデザートまで進んだ時に言った。
ルナはぱちくりとフェリクスを見た。一見すると喧嘩などしそうにないが
「レイフ、スクールを卒業したら、私の通うジムを紹介しよう」
フェリクスがラファエルに言った
リリアナが眉を潜めてるので
「伯爵夫人、男社会では喧嘩が強い人間ほど優位になれるんですよ。単純なんですよ」
笑いながらキースが言った
「ま、まぁそうなの?」
「ちなみに俺も結構強いんだ、あんまり負けたことがない。けど、フェリクス卿にはかなう自信がないな」
ラファエルが悔しそうに言った
「フェリクスは場数を踏んでるからね」
アルバートがラファエルに言った。
「公爵家の嫡男ってだけで絡まれる。しかも上級生からね」
「そうだよなぁ、俺だって嫡男だって事でやられるくらいだからね…」
なかなかそれは物騒な世界だ。
しかし、ラファエルがそうやって喧嘩が多いように話して、ルシアンナの件がもれないように気づかっているのだろうとルナは思った。
ルシアンナが気づいて無いようでルナはほっとした。
「ラファエルったらそんな口の聞き方をして、いけないわ」
ステファニーが彼女らしく、たしなめた。
ルシアンナはしかし、喧嘩の原因が気になっている様にも思えた。気づかないでほしい…!
ダイニングルームから、広間にうつり
ブロンテ姉妹で演奏をすることになった。
ステファニーがピアノをひき、レオノーラがハープを、ルシアンナとルナが歌を歌う。この夜は古典の軽やかな曲調の物を選んでいた。
演奏を終えると、拍手を受けて姉妹そろってお辞儀をした。
そういえば、とルナはフェリクスに近より
「頂いた画材で絵が完成したんです」
フェリクスを広間の壁に導くと、四姉妹とラファエルの並んだ絵を見せた。
自分だけは鏡を見ながらだから自信はないけれど、
「もうすぐステファニーが結婚して家を出ていってしまうので、5人の絵を描こうと思ったの」
それほど大きな絵では無いものの、ルナからみた家族の肖像画だ。
「これは素敵な絵だね、どんな画家にだってこうは描けない。ルナは本当に家族が好きなんだね?」
フェリクスの言葉に嬉しくなりルナは頷いた
「すごいわルナ!今度は私の家族の肖像画も描いてくれない?」
アデリンが言ってきた。
「私で良いのなら…」
ルナは照れながらうなずいた。
「ねぇ、他にはないの?」
アデリンの言葉に、ルナは彼女が喜びそうな絵を思い出した。
「廊下にあるの」
連れていったブロンテ邸の廊下には、大きめの額に入ったレオノーラの騎士姿の絵が飾ってあった。これは五年位まえの物で、本格的に描きだした頃だ。
「きゃあ!」
アデリンが喜びの声をあげた。
「すごいわルナ…」
アデリンはすごいすごいを連発させた。
広間に戻ると、男性陣はシガールームに行っていた。
リリアナとレオノーラ、ステファニーとルシアンナ。コーデリアがカードゲームをしていた。
男性たちが戻ってくると、
「レディたち、レオノーラを残して少し席を外してくれ」
とアルマンがいい、
訝しく思いながらもぞろぞろと外に出た。
広間の中にはレオノーラとキースを残して
「…まさか!?」
広間を出て、リリアナが声をあげた
「しっ!今、キース卿から求婚の許しを請われて許可を出した」
ステファニーとルシアンナ、ルナも息を飲んだ。
今出てきた扉をじっと見つめていた。
「レディ ルシアンナがすでに純潔ではないとか…」
「まさかっ!」
「弟が聞かされたそうなの」
マリアンナの弟のブライスは、ルシアンナの求愛者の一人であった。
ルシアンナは確かに色々な男性と親しくはしていたが、そこまで軽率ではない。レディにとっては最低な噂だった。
「幸い女性たちにはあまりひろまっていないようだけれど、心配だわ。わたくしもレディ ルシアンナはそんな事はないとブライスから聞いて思っているもの」
「教えて下さりありがとうございました、レディ マリアンナ」
その日、ルナは迷った末に晩餐会の為に週末のみ帰宅したラファエルに相談することにした。
「ラファエルお兄様ちょっといい?」
部屋で勉強中だったラファエルが振り返り、いいよと応じた。
ルナに座らせ、自分は行儀悪く椅子に反対向きに座ると、
「ちなみにさ、ラファエルって呼ぶのはやめて。レイフにして」
ラファエルは、名前があまり気にくわないようだ。
ぴったりだとルナは思ったが、男にはそういう沽券があるのだろう。
「わかったわレイフお兄様」
「で、なに?改まって」
ルナは躊躇ったが
「あのね、レディ マリアンナが教えて下さったのだけれど、ルシアンナに噂があるそうなの」
「…どんな?」
怖い表情になるラファエルにルナは
「怒らないで聞いてほしいの」
「…わかった。出来るだけ努力しよう」
心配しつつもルナは
「あの…ルシアンナがすでに純潔でないとか…」
ラファエルは音をたてて立ち上がると、
「なんだと!」
「だから怒らないでって」
「怒らずにいられるかっ!」
ルナはびくりとしたが、ラファエルの緑の瞳は怒りに爛々として、いつもの飄々としたラファエルはすっかり成りを潜めた。
「どこにいくの!」
そのまま部屋を飛び出したラファエルは返事もせずに、どこかに行ってしまった。
「ああ、どうしよう!」
ルナは廊下に出たものの、うろうろとしてしまった。
階下に降りても対処のしようが全くわからない。
「ラファエルはどこにいったかわかる?」
執事のアントンに聞いても、
「いいえ、困ったことにさっぱりわかりません」
「どうしよう!」
ルナは外に飛び出したがどこにもラファエルの姿が見えるはずもなく。
ちょうどブロンテ邸に馬でやって来た、フェリクスとキース、アルバートにラファエルの事を話した。理由は詳しくは告げずに…。
「なんだって?」
3人はこそっと話し合ったが、
「まだ時間はあるな、私たちが探しにいこう、ルナは屋敷で待っているといい」
フェリクスがルナを屋敷まで押し込むと、そのまま馬をかけていった。
心配していたが、ルシアンナの事を母はもちろん、ステファニーとルシアンナには言えず
「レオノーラお姉様!」
レオノーラが苦行のドレスを身に付けているところに駆け込んだ。
「お姉様、私間違ったことをしたのかもしれない」
「どうしたの?ルナ。落ち着いて話して?」
レオノーラは、メイドたちを下がらせると、ルナの話を聞いた。
「わかった、でもルナ。あの3人が任せろと言ったなら信じて待てばいい。ルナも支度をしておいで、その方が帰って来た彼らもいいだろうしね」
にっこりと微笑まれて、ルナは安心した。
「私も、この格好でなければ一緒に行ったのにな…」
「…レオノーラお姉様…?」
ん?と微笑まれて、ルナはレオノーラも兄と同類かと、ぞくりとした。
ルナが身支度を終えて、階下でいるとアデリンがやって来た。
「ルナ!来たわ」
にこにこと微笑むアデリンは可愛らしく、アルマンとリリアナに挨拶をした。
「またルーファスがルナに会いたいってごねてるんですって。また一緒に遊びに行ってくれる?」
「もちろん構わないわ!」
ルナはルーファスを思い出し、すぐにでも会いに行きたくなった。
「旦那様!」
珍しくアントンが慌てたように、やって来た
「ラファエル様が…!」
ルナは慌てて立ち上がったが、レオノーラの方がいち早く玄関ホールに向かった。
ラファエルは、乱れ汚れたひどい格好だったし、アルバートも血がついたり、痣があった。ラファエルを両側から支えたフェリクスとキースも乱れきっていた。
「このような姿で申し訳ない伯爵」
フェリクスが苦笑しながら言った。
「すぐに手当てと着替えを用意させよう」
執事とビアンカが慌てて準備に駆け出し、
「で、勝ったのかラファエル」
「当たり前だ、一人じゃ無理だったけど加勢が恐ろしく強かった向こうの方はボロボロさ」
とニヤリと笑って見せた
「それなら良い。助力に感謝します」
アルマンも笑って、彼らをみた。
レオノーラは
「ラファエル、よくやった」
と拳を合わせた
「しかし、レイフ。どこのどいつだか後できっちりと教えてもらわないと、私もきっちりとお礼がしたいからね」
と美しい笑みを浮かべたが、レオノーラの瞳は危険な光を湛えていてルナは恐ろしく怖かった。
予定より遅れてはじまった晩餐会は、うってかわって和やかで
アルマンとフェリクスやキースは積極的に話していたし、アルバートとラファエルは喧嘩仲間となり一気に打ち解けた様で、笑いながら話をしていた。
「ねぇ、ルナ。ラファエル様ってレオノーラ様にそっくりね!」
アデリンは顔に傷の出来たが、綺麗な顔のラファエルを見て言ってきた。
「そうでしょう?性格も似てると思うの」
くすくすとルナは笑った。
「父上、フェリクス卿はすごく強い!一撃で倒したんだ」
とラファエルがデザートまで進んだ時に言った。
ルナはぱちくりとフェリクスを見た。一見すると喧嘩などしそうにないが
「レイフ、スクールを卒業したら、私の通うジムを紹介しよう」
フェリクスがラファエルに言った
リリアナが眉を潜めてるので
「伯爵夫人、男社会では喧嘩が強い人間ほど優位になれるんですよ。単純なんですよ」
笑いながらキースが言った
「ま、まぁそうなの?」
「ちなみに俺も結構強いんだ、あんまり負けたことがない。けど、フェリクス卿にはかなう自信がないな」
ラファエルが悔しそうに言った
「フェリクスは場数を踏んでるからね」
アルバートがラファエルに言った。
「公爵家の嫡男ってだけで絡まれる。しかも上級生からね」
「そうだよなぁ、俺だって嫡男だって事でやられるくらいだからね…」
なかなかそれは物騒な世界だ。
しかし、ラファエルがそうやって喧嘩が多いように話して、ルシアンナの件がもれないように気づかっているのだろうとルナは思った。
ルシアンナが気づいて無いようでルナはほっとした。
「ラファエルったらそんな口の聞き方をして、いけないわ」
ステファニーが彼女らしく、たしなめた。
ルシアンナはしかし、喧嘩の原因が気になっている様にも思えた。気づかないでほしい…!
ダイニングルームから、広間にうつり
ブロンテ姉妹で演奏をすることになった。
ステファニーがピアノをひき、レオノーラがハープを、ルシアンナとルナが歌を歌う。この夜は古典の軽やかな曲調の物を選んでいた。
演奏を終えると、拍手を受けて姉妹そろってお辞儀をした。
そういえば、とルナはフェリクスに近より
「頂いた画材で絵が完成したんです」
フェリクスを広間の壁に導くと、四姉妹とラファエルの並んだ絵を見せた。
自分だけは鏡を見ながらだから自信はないけれど、
「もうすぐステファニーが結婚して家を出ていってしまうので、5人の絵を描こうと思ったの」
それほど大きな絵では無いものの、ルナからみた家族の肖像画だ。
「これは素敵な絵だね、どんな画家にだってこうは描けない。ルナは本当に家族が好きなんだね?」
フェリクスの言葉に嬉しくなりルナは頷いた
「すごいわルナ!今度は私の家族の肖像画も描いてくれない?」
アデリンが言ってきた。
「私で良いのなら…」
ルナは照れながらうなずいた。
「ねぇ、他にはないの?」
アデリンの言葉に、ルナは彼女が喜びそうな絵を思い出した。
「廊下にあるの」
連れていったブロンテ邸の廊下には、大きめの額に入ったレオノーラの騎士姿の絵が飾ってあった。これは五年位まえの物で、本格的に描きだした頃だ。
「きゃあ!」
アデリンが喜びの声をあげた。
「すごいわルナ…」
アデリンはすごいすごいを連発させた。
広間に戻ると、男性陣はシガールームに行っていた。
リリアナとレオノーラ、ステファニーとルシアンナ。コーデリアがカードゲームをしていた。
男性たちが戻ってくると、
「レディたち、レオノーラを残して少し席を外してくれ」
とアルマンがいい、
訝しく思いながらもぞろぞろと外に出た。
広間の中にはレオノーラとキースを残して
「…まさか!?」
広間を出て、リリアナが声をあげた
「しっ!今、キース卿から求婚の許しを請われて許可を出した」
ステファニーとルシアンナ、ルナも息を飲んだ。
今出てきた扉をじっと見つめていた。