伯爵家の四姉妹

疑惑の芽

はじめてオペラに来たルナは、ドキドキしっぱなしだった。
劇場のホールには着飾った男女たちが、集まった様子は舞踏会以上の混雑だ。
フェリクスにエスコートされたルナは、フェリクスとルシアンナ、ジョージアナたちに集まる視線と挨拶のタイミングを伺う人たちの視線を感じて、本当にみんな人気者だなと苦笑した。

そんな中ふと見ると、人混みの向こうにいる女性と目があった。
ルナとフェリクスを見ていた？
と思ったルナは、
「フェリクス様、お知り合いですか？」
「ん？どの人かな」
視線を戻すと、その女性はすでに見えなくなっていた。
「女性の方だったのだけれど…気のせいだったのかもしれません」
ルナは過敏に反応してしまったことを恥じた。
フェリクスに知り合いは多いだろう。愚問だった。
「そう？」

ジョージアナは、劇場でギルバート・エアハートと待ち合わせをしていたらしく、ルナは驚いた。
ギルバートは落ち着いた背の高い怜痢な紳士で、金髪に紫の瞳が綺麗な貴公子だった。
「内緒よ」とルシアンナとルナに言うとギルバートの腕に手をかけてボックス席に向かった。
「あの、いいのかしら？」
「ギルバートの事？」
ルナがうなずくと
「彼は優れた学者なんだ。親に反対はされるだろうけれど、ルナは気にしなくていい」
くすっと笑った。
「私だってジョージアナはかわいい妹だ。好きな相手がいるのに協力しないわけがない」
「それならレディ ジョージアナも心強いですね」
にっこりとルナは笑った

オペラのボックス席にそれぞれ座ると、幕があがり演目がはじまった。
悲恋のオペラは多いが、これもまさしくそれだった。
ルナは夢中でみいって、フェリクスの話が時々耳に入らず、フェリクスに笑われた。
「すごいわ、やはりプロは！あの高い声があんなにも響くなんて」
興奮して話すルナにフェリクスは終始、屈託なく笑っていた。
「ほらほらルナ。ぼんやりしていると、後半が始まるわ、パウダールームに行ってきなさいな」
とボックス席から押しやった
フェリクスが着いてきて、ルナはパウダールームに入った。

身なりを調え、出ようとしたところで
「レディ、扇をお忘れですわ」
と声をかけられた。
隣にいたらしい女性は、レオノーラより年上だろうか？落ち着いたしっとりとした美しい女性だった。
栗色の髪を上品に結い、淡い紫の瞳がルナを見つめていた。
「まあ、ありがとうございます。レディ」
ルナは扇を受け取った所で、ふとその女性が着いたときに見ていた人ではと思った。

パウダールームに新たに入ってきた女性は、その友人らしく
「アネリ、まだここにいたのね？そろそろ始まるわよ」
アネリと言われたその女性はお辞儀をして先に立ち去った。

続いてパウダールームを出たルナは、アネリと友人を見て一瞬フェリクスが驚いた顔をしたのに気づいた。

隣にたったルナは、
「さっきの女性、お知り合いなの？」
「ああ、ウィンスレット公爵領のご夫人だ」
と答えた。
「そうなの？」
驚いた顔をしたのに、ルナは少し疑問を持ったがオペラの後半に盛り上がったルナは、その疑問をすぐに忘れてしまった。

帰りの馬車でも、オペラの事を話すルナにフェリクスは優しく聞き入っていた
「あんなにも感激するなんて本当に素晴らしかったわ」
「そうか、それならまた来よう」
とフェリクスが言い、
「本当に？フェリクス様」
と笑顔を向けた

「ルナったら本当に可愛いわねぇあんたは」
くすくすとルシアンナがルナを撫でた
「良いわね姉妹って。とっても羨ましいわ、わたくしも可愛い妹がほしかったわ」
ジョージアナもくすくすと笑った。
「良いことばかりじゃないけれど、特にステファニーとは喧嘩ばかりしてたわ」
ルシアンナが言った
「ルナだって、ほとんどお下がりばっかりだったしね」
ちらりとルシアンナは、フェリクスからのドレスを見てニヤリと笑った。
「そのドレスは違うけど」
ルナは頬を染めて微笑んだ。
「やはりルナに作ったものはよく似合ってるわね」
と褒めてくれた。