伯爵家の四姉妹

確執

春の終わり、フェリクスが正式にブロンテ家にやって来た。
「こんにちはフェリクス様」
ルナは、屈託のない笑顔をむけた。
「ルナ、ここはみんな元気そうだね」
この日もどこか華やいだ雰囲気のブロンテ家、
「ええ元気よう。それにいつでもうちはバタバタしてるわね」
もうすぐレオノーラの結婚式が行われるのだ。ルナはくすくすと笑った。
「大急ぎでの準備だね。大変そうだ」
「お母様が燃えているの。ステファニーお姉様の結婚式にはもう燃え尽きて灰になりそう」
くすくすと笑った。


書斎にいるアルマンの元に一緒に行ったフェリクスは、
「時間をさいて下さってありがとうございます伯爵」
と礼をとった。
「いや、構わないよ。改まった話かな?」
「改まった話、でもありますね。ルナを私から両親に紹介したいのです。ブロンテ伯爵に許可を願いにきました」
フェリクスが微笑みをたたえ毅然と言った。
「それはつまり、ルナと正式に婚約をするためと考えて良いのだね?」
「もちろんです」
アルマンはにっこりと笑うと
「やれやれ、やっとかというのが正直な感想だ。私の見たところ、ずいぶん前から君しかうちの娘には見えてなかったようだからね」
と言った。
「よい報告を待っているよ。ルナ、公爵ご夫妻に気に入られるといいな」
「ええ、お父様。そう願うわ…!」
ルナは笑った

ウィンスレット公爵家には何度か行っていたが、正式に両親と会うとなるとやはり緊張するものだ。
フェリクスの迎えで、晩餐の席に招かれた。

「ルナ、よく来てくれたわね」
ジョージアナが美しい顔に笑みを浮かべて、迎え入れ肩を抱き締めた。
ジョージアナはステファニーと同じくらいで、ルナより少し背が高い。
「いらっしゃいレディ ルナ」
エリザベスは、ルナに形通りの挨拶をしたが、心から歓待してはいなさそうで、ルナは少し不安になった。
どんな階級であっても、嫁姑は難しいものだと聞く。
「お招きありがとうございます。公爵夫人」
ルナは出来るだけ美しく見えるよう気をつけ、お辞儀をした。

ライアンは、にこやかに二人を祝福したし、ジョージアナもルナににこやかに接していて、穏やかに晩餐はすぎた。

宿泊の予定だったので、ルナは応接間でジョージアナとフェリクスと共にカードゲームをしていた。
「わたくしはやはり反対だわ。フェリクスにはレディ アンジェリカの方がふさわしいわ。侯爵家の長女よ」
「エリザベス、何をいいだす?」
ライアンが咎めた。
「不美人とは思いませんけどね、ルナは容姿もぱっとしないし四女で持参金も少ないんじゃありませんか?」
「お母様!なんてことを言うの?最初は反対なんて言ってなかったじゃないの」
ジョージアナがカードを置き、エリザベスのもとへ向かった。
「気が代わったの」
ルナは固まったかのように動けなかった。
「お母様、うちには侯爵家の令嬢も持参金なんていらないでしょう」

「ルナ、気にするな。母は少し息子の結婚に文句を言いたいだけだろう」
フェリクスはルナに安心するように肩を抱き、エリザベスに向かっていった。
「母上、ルナに謝って下さい」
「フェリクス、考え直して。おしとやかに見えても、汚ないことを平気でするような女もいるのよ」
エリザベスが言った。
「何の話ですか?」
フェリクスが怪訝な表情をみせた。
「エリザベス、フェリクスとルナに当たるんじゃない」
ライアンがエリザベスの腕をつかんだ。
「すまないな、つまらぬ夫婦喧嘩をしたところだ。巻きこんでしまったようだ。あとは3人で楽しくしててくれ」
ライアンはほほえむと、エリザベスを強引に連れ去った。
「まったくお母様ったら。相変わらず伯爵より侯爵の方がなんて。わたくしはアンジェリカなんて嫌いだわ」
ルナはジョージアナとフェリクスを見た。
「大丈夫だよ、父は賛成してる。母を説得してくれるさ」
とにこやかに笑った。
「そう?」
あまり気に入られていないのは仕方ないが、拒絶されるのは辛いものだ。
俯いたルナにジョージアナが明るく言った。
「お父様の言うとおり、夫婦喧嘩ね。時々あるのよこういうことが」

気を取り直してゲームを再開したが、あまり盛り上がらず早々に切り上げフェリクスは、ルナを客室に送った。
「ブロンテ家とは違って、親同士はあんまりうまくいってないんだ」
フェリクスがばつが悪そうに言った
「母の事は気にしないでほしい。俺が信じられるか?ルナ」
「もちろん信じる」
ルナは即答し、フェリクスは微笑んでありがとうというとルナにそっとキスをして、おやすみというと離れた。
「もう、いってしまうの?」
フェリクスは苦笑すると、
「いっただろう?男は危険なものだと」
「フェリクス様なら構わないもの」
「フェリクスでいい、ルナ。けれど、それはちゃんと結婚出来てからにね」
真剣な眼差してみられて、
「フェリクス…」
とそっと呼んでみた
「ルナ、俺だってここにいたいさ」
ともう一度キスをすると、そっと離れて立ち去っていった。


翌朝のエリザベスは、ルナに謝ることも、気軽に声をかけることもなかったが、少なくとも表面上は穏やかであった。
ライアンがうまくとりなしたのだろう。
その事にルナはややほっとした。

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