伯爵家の四姉妹
「もう止めなさい、二人とも。ルナがますます縮こまってるよ」
レオノーラがルナを優しく抱き締め、
「さぁ私が部屋に連れていってあげるから」
レオノーラが笑みを向けて、ルナはやっと微笑んだ。
近衛騎士姿のレオノーラにエスコートされると、本当にうっかり恋をしそうなくらい凛々しく素敵なのだった。
「私も楽しみにしているからね、王宮で会おう」
ルナの頬にキスをすると、レオノーラは颯爽と勤務に向かった。
「ルナ様、さあ今日は大切な日ですからね」
とメイド長のビアンカが気合いがみなぎって、メイドたちを引き連れてルナの部屋に入ってきた。
メイドたちのなすがまま、ルナは念入りに磨かれた。
「まあまあ、憂鬱そうな顔をされて」
ビアンカは呆れたように言った
「行きたくないわ」
そんなルナの意思は無視され、昼過ぎには軽食をとるとコルセットを締められ、デビュタントを示す白いドレスと白の花冠を身に付けた。髪は巻いて結われる。
「まぁ、とっても可愛らしいですわ。ほらほら鏡をご覧になって」
鏡には憂鬱そうなルナの顔。結われた金髪に花冠、そして白のドレス。艶々にされた白い肌と唇、ブルーグレーの瞳は謎めいて煌めいていた。きらびやかな姉の容姿に比べると優しげな顔だちであった。
ステファニーはアンドリューと王宮に向かった為、ブロンテ伯爵夫妻とルシアンナ、とルナを馬車に乗せて王宮に向かった。
控え室にはデビュタントたち、そこにエスコート役の青年たちが入ってきて、相手をつとめる少女たちにお辞儀をした。
ルナのエスコート役のフェリクスは評判通り素晴らしい美男だった。
輝くような金の髪に青の瞳。貴族的に整った顔は少し尊大な雰囲気を醸し出し明らかな身分の高さを感じさせた。
それでも礼儀をわきまえている彼は、緊張しているルナに微笑みを絶やさなかった。
「レディ ルナ、レディ アデリンを紹介しよう」
同じくデビュタントのアデリンは、楽しそうな笑みを浮かべた少女で、なかなか可愛らしい顔をしていた。
「友人の妹でレディ アデリン・レイノルズ、アデリン、こちらはレディ ルナ・ブロンテだ」
二人はお辞儀をした。
アデリンはつまり、王太子妃クリスタの従妹で、有名人のアボット伯爵の義理の妹で、なおかつレディの鏡として名高いシャーロットの実の妹。という事である。
ルナなど比較にならないほどの注目のレディだ。
「こちらがレディ アナベル・メイスフィールド」
地味な顔だちなアナベルも、王子妃エセルの従妹である。
つまり、二人ともルナよりも大変な立場であった。
ルナは二人に親しみを覚えて、にっこりと微笑んだ。身内が有名人なのは自分だけじゃないのだ、とはじめて気がついたのだ。
二人がどう感じているのかは分からないが、身内を嵩にきるような鼻持ちならないレディでないことは屈託のない笑顔でわかった。
アデリンのエスコートはアルバート・ブルーメンタール 黒い髪に青い瞳の素敵な貴公子で、アナベルにはジョルダン・アシュフォード 銀髪に青い瞳の若い貴公子だった。
フェリクスとアルバートは親しい友人で、ジョルダンは友人の弟ということで、ルナは彼らの親しげな雰囲気にほっとさせられ、緊張もほどけてきた。