栞の恋
…どちらかと言ったら、消極的な性格で、自ら何か行動を起こすことなど、今までにあっただろうか?
栞は自問してみる。いつでも冷静沈着を心掛け、物事はよく考えてから実行に移す。それが小さい頃からの、自分なりのスタンスだった。
その自分が、今、見知らぬ男性に店員が渡し忘れた物を届けるために、自ら志願してエレベーターに向かい走っている。

先程、『私が渡してきましょうか?』と申し出た時の、店員の困惑したような、でも嬉々とした顔を思い出す。

『お知合いですか?』
『いえ。ただ、先程の男性なら覚えているので、今追いかければ間に合うかなと…』

直に答えると、店員は

『では、申し訳ないのですが、お願いしてしまってよろしいですか?もし、いらっしゃらなければ、そのポイントカードは、そのままお客様がお使いください』

手渡されたカードを開いてみると、今日作ったばかりで既に残り1個で千円分の割引券となるものだった。さすがにそれは気が引けるので、いなかったら戻ってくる約束をして、その場から立ち去ろうとすると『すみません、これも一緒に』と、グリーンのしおりを渡される。

しおりのサービスも言い忘れたとのことで、カラーは、取りあえずのものらしかった。

< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop