ある雪の降る日私は運命の恋をする
朱鳥の病室から出て、1時間。

もう、そろそろ朱鳥の所に行こうかな……

そう思い、無菌室へ向かう。

無菌室に入ると、看護師さんがやってきた。

「清水先生、さっき言っていたぬいぐるみの消毒できましたよ。許可も出ましたし、もう、持ち込んで大丈夫です。」

「ありがとう。よかった……」

もし、持ち込めなかったらどうしよう…

そう、思ってたけど良かった。

これで、朱鳥が少しでも不安にならなくなればいいな。

そう、思った。

コンコンッ

朱鳥の部屋に入る。

すると、布団の所が大きくなっていて、朱鳥が潜っているのがわかる。

「朱鳥ー、顔出して?さっきは、無理矢理やっちゃってごめんね?ちょっと見せたいものがあるんだけど……」

「ぃゃ……」

今にも消え入りそうな、か細い声が聞こえた。

「朱鳥の寂しさとか、不安が少しでも減るようにって思ったんだけど。ダメ…かな?」

そっと、朱鳥に触れる。

ビクッとした朱鳥。

すると、朱鳥は恐る恐る布団から目の所だけを出した。

朱鳥の目は真っ赤に充血していて、たくさん泣いた事がわかった。

「朱鳥、ほら見て?昨日、行った水族館で買ったんだ。消毒するのに、ちょっと時間がかかっちゃったけど、これ朱鳥へのプレゼント。」

昨日、朱鳥がとても幸せそうな顔をしていたイルカショー。

お土産屋さんを見た時、コレだ!って思った。

一見、人形に見えるような、水色の大きなイルカの抱き枕。

朱鳥はまた、恐る恐る手を伸ばしイルカを受け取った。

朱鳥は、しばらくそれを見続けたあと、イルカをギューっと、めいいっぱい抱きしめた。

朱鳥の目からまた、涙が流れる。

次第に嗚咽を漏らしながら、泣いていた。

「……ふぅ…ま…………ごめ……ん…なさぃ……私…ワガママ…………ばっかり…」

「ううん、いいんだよ。誰でもここに初めて入る人は、怖がるもん。俺たち医者だって、初めてここに入った時は、驚くし、正直怖かった。だから、いいの。ちょっとぐらいワガママ言ってもいいから。でも、俺たちは朱鳥に元気になって欲しいから、治療はするけどね(苦笑)」

「楓摩……」

「ん?どうした?」

「ありがと。」

そういうと、朱鳥はまた、イルカをギューっと抱きしめた。

「じゃあ、朱鳥、これから、点滴始めるよ。手、出して?」

コクン

朱鳥は頷き、手を出してくれた。

だけど、その手は震えていた。

「大丈夫…大丈夫だからね……」

そう言って、点滴の針を刺していく。

朱鳥は、痛みと不安を堪えるように、目をギュッと瞑っていた。

「よし、出来たよ。朱鳥は、偉いね。ちゃんと我慢して、偉いよ。頑張ったね。」

朱鳥の髪の毛を撫でる。

すると、朱鳥は少しだけ顔を綻ばせて、笑った。

「朱鳥、俺は仕事があるから、もう行くけど、欲しい本とかマンガとかある?ここに居たら暇でしょ?テレビくらいはあるけど、それでも暇だよね。」

「…んー、じゃあ、小説が欲しいな。」

「小説?マンガとか、雑誌じゃなくていいの?」

「うん。マンガとか雑誌ならすぐ読み終わっちゃうからさ。えっと、これ、この本が欲しいの。」

そう言って、朱鳥はスマホの画面を見せてきた。

その本の内容は

餓死寸前だった主人公がある日、偶然に出会った人に救ってもらい、そこから変人揃いの探偵社に入る事になる。この世に存在する価値がない。と昔いた孤児院の人に言われていた主人公が、自分の生きる価値を探して、仲間たちと一緒に抗って戦うという物語。

俺は聞いたことが無かったが、中高生には人気があるみたいだ。

「わかった、これを買ってくればいいんだね。もし、読み終わったらさ、俺にも読ませてよ」

「うん!友達が面白いって言ってて、前から読んでみたかったんだ。」

朱鳥は、もうすっかり元気な様子で良かった。

「そんなに人気なんだ。ま、俺は仕事あるからもう行くな。また、昼休みに来るな。」

「うん。また後でね!」
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