ある雪の降る日私は運命の恋をする
「朱鳥ー、ご飯持ってきたよー。」

「おお、ありがと!」

目の前に置かれたのは、美味しそうなご飯。

美味しそう…でも、食欲はわかない。

「どう?朱鳥、食べれそう?」

「んー、ちょっと頑張ってみる。」

少しだけ取って口に運ぶ。

美味しいんだけど…なんか、お腹がグルグルしているような感じがして気持ち悪い。

それでも、頑張って飲み込んで、もうちょっと食べようと、また、口に物を運ぶ。

それの繰り返しでなんとか、3分の1くらいは食べれたけど……

もう、限界…

「朱鳥、大丈夫?気持ち悪くない?」

「…少しだけ……。」

「吐きそうだったら、吐いていいからね。じゃあ、俺は仕事あるから行くね。点滴は、朱鳥が寝てるうちに変えておいたから。具合悪かったらすぐナースコールね。」

「はーい。」

楓摩は、私の残したご飯のトレーを持って出ていった。

楓摩がいなくなると、途端に静かになる病室。

換気扇の音や、時計の音がやけに大きく聞こえる。

楓摩に貰った本を読もうと思って、テーブルに手を伸ばす。

本を取って、表紙を開く。

この本は、挿絵が入っていて、一番最初には、カラーページもある。

目次の次はいよいよ本編だ。

ワクワクしながらページをめくる。

その本は、とても魅力的だった。

どんどん読み進めていて、気付いたらもうあと少しの所だった。

少し、目が疲れたので休憩を入れようと思い、テーブルに本を置く。

ちょっと体を動かした、その時

強烈な吐き気が襲ってきた。

「ウッ…」

慌てて手で口を塞ぎ、桶を手に取る。

「オエ………ゴホッ…ゲボ…… オェェ…」

気持ち悪いよ…

喉も胃酸で痛いし、口の中も酸っぱい感じで嫌だ。

しばらくすると、止むと思い頑張って耐えていたが、吐き気は止まる様子がない。

さっき食べたばかりのご飯も全部吐き出してしまい、もう胃酸しか出てこない。

ナースコール、押さなきゃ……

なんとか、ナースコールを押したものの、喋る事はできない。

『前苑さん、大丈夫ですか?今、行きますね。』

吐き気は止むどころか、しだいに増している気がする。

頭も痛いし、酸欠で頭もクラクラしてきた。

ガラッ

「朱鳥ちゃん、大丈夫?今、楓摩手が離せないから俺が来たけど、結構吐いちゃったみたいだね。どれくらい前から吐いてた?」

陽向先生だ。

陽向先生は、少ししゃがんで私目線で聞いてくれる。

「……ゴホッ…15分…くらい前から…………ゴホッゲホッ…」

辛すぎて、涙が出てくる。

「朱鳥ちゃん、今、吐き気止め追加するけど、少し寝ようか?寝た方が断然楽だし、と言っても、このままだと辛くて眠れないでしょ?」

コクン

「じゃあ、お薬使って寝よっか。朱鳥ちゃんの体力も心配だから、そうするね。」

もう、喋るのも辛い。

なんでもいいから、早く楽にして……

ただ、そう願うだけ。

「ちょっと待っててね。すぐに戻るから。」

そう言うと、陽向先生は小走りで病室から出ていった。

戻って来た陽向先生の手には、注射が乗せられたトレー。

いつもなら、嫌だけど、それで、楽になれるならいい。

それくらい、辛かった。

「朱鳥ちゃん、少し痛むからね。」

腕に痛みが走る。

「朱鳥ちゃん、これで大丈夫だからね。だんだん眠くなってくるよ…」

陽向先生は、ベッドを倒してくれて、私が寝やすいように、手で目元を隠してくれる。

「大丈夫、大丈夫だからね。安心して眠りなよ。」

その言葉を合図に、だんだんと意識が薄くなっていき、私は眠りについた。
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