ある雪の降る日私は運命の恋をする
久しぶりの仕事は、とても、やり甲斐があった。

つい、最近まで寝込んでいて、看病される側だったから、その辛さもわかった。

次々と来る仕事を1つづつこなし、気付くともう、夜遅かった。

それから、俺は1度家に帰って、シャワーを浴びて、仮眠を取ってから、また、病院へ戻った。

時刻は、朝6:00。

医局には、まだほとんど人は、いなかった。

当直の先生が2人ほど、居たけど、2人ともソファーで仮眠を取っていた。

荷物を置いてから、病棟のナースステーションへ向かう。

ナースステーションには、何人か看護師さんがいた。

その中には、橘さんの姿もあった。

「橘さん、おはようございます。当直、お疲れ様です。昨日の当直帯って、何かありました?」

「あぁ、楓摩先生、おはようございます。昨日は、朱鳥ちゃんが多少うなされていたみたいですけど、それ以外は患者さんの容態も安定していて、特に何もなかったですよ。」

「そうでしたか、ありがとうございます。それと、朱鳥って何時くらいにうなされていたか覚えてますか?」

朱鳥は、最近うなされることが多いみたいだ。

俺が、インフルで寝込んでいる時も、何度か、寝ながら泣いているのをみた。

「んーと、正確にはわからないですけど、多分…3時か4時くらいですかね……?」

「ありがとうございます。じゃ、俺、ちょっと様子が気になるんで見てきますね。」

「はい。お疲れ様です。」

まだ、患者さん達は寝静まっている時間なので、できるだけ足音を立てないように、そっと廊下を進む。

朱鳥の病室に着き、そっとドアを開ける。

「朱鳥、入るよー……」

そう小声で言いながら、中に入る。

「……グスッ…ヒック…………ゃぁ………ゃめっ!!……ふぅ…ま…………っ!!…助けっ……グスッ…」

朱鳥は、うなされていた。

多分、橘さんが来た後に1度収まったのだろうけど、また、怖い夢を見ているのだろう。

「朱鳥、大丈夫だよ。俺は、ここに居るからね。大丈夫だよ。怖くないよ。」

朱鳥の手を取り、そう囁く。

すると、朱鳥は少しだけ目を開けた。

「……グスッ…ヒック…………ふぅ…ま……?」

「楓摩だよ。おはよう。朱鳥、大丈夫?だいぶ、うなされていたみたいだけど。」

すると、朱鳥はビクッと震えた。

「嫌っ……怖い…………怖ぃ……」

また、夢を思い出しちゃったかな……

「朱鳥、大丈夫。落ち着いて。もう、怖いものはないからね。安心して。」

そう言って、朱鳥を抱き締める。

しばらくは、震えていた朱鳥だったが、徐々に落ち着いてきて、まだ、やっぱり眠かったのか、また眠りについてしまった。

スースーと寝息を立てて眠っている朱鳥の髪を撫でる。

「どうか、いい夢を見れますように。」

おまじないと言ってはなんだが、少しでも朱鳥の力になれたら、と思った。

朱鳥の頬は、涙で濡れていた。

それを、そっとハンカチで拭う。

「早く、元気になれるといいね。元気になったら、いっぱい楽しい事しようね……」

早く、病気を治して、トラウマからも解放されたら、朱鳥はどれだけ楽になるだろう。

早く、治してあげたいな。

今は、ただ、朱鳥の健康を願うばかりだった。
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