ある雪の降る日私は運命の恋をする
検査室のベッドに朱鳥を寝かせて、俺は用意を始める。

今日の補助は橘さん。

いつもは、何かしら手の空いてる陽向や瀬川くんに頼んでいたんだけど、今日は2人とも手が空いてないらしい。

だから、看護師さんの中でも一番朱鳥が信頼してる人にお願いした。

朱鳥は、ベッドの上でギュッと目を瞑っている。

「朱鳥」

そう呼ぶと、朱鳥はビクッと震えてから、ゆっくりと目を開けた。

「そんなに、緊張しなくても大丈夫だよ。リラックスしてね。」

……コクン

朱鳥の様子を気にかけながら検査の用意を進める。

ふと、朱鳥の方を見た時、朱鳥の顔色が悪い気がした。

もしかしたら、気の所為かもしれないけど、でも何か違和感を感じる。

「朱鳥、大丈夫?顔色悪いけど、具合悪くない?」

そう言うと、朱鳥は少しだけ頷いた。

「大丈夫?」

もう1度聞くと、今度はコクンとしっかり頷いてくれた。

やっぱり、俺の気の所為だったかな……

そう思う事にした。

「よし、朱鳥横向いて丸くなって。」

コクン

橘さんは、横になった朱鳥のズボンを下げて腰を出し、その上に青い穴あきのシーツを掛けていく。

朱鳥は、微かに震えて、怯えている。

「朱鳥、検査始めるよ。力抜いててね。」

コクン

「じゃあ、麻酔の注射するから、少し痛むからね」

コクン

消毒をして、注射器を構える。

「少しチクッとするよー」

出来るだけ痛くないように角度を考えて針を刺す。

「……っ!!」

「ごめんね、痛いかもしれないけど、ちょっと我慢してね」

1本目を打ち終わり、朱鳥の腰を触る。

「朱鳥、まだ ここ感覚ある?」

コクン

「じゃあ、もう1本追加」

「っやだ!!」

「…ごめんね」

胸が痛い。

だけど、朱鳥のため。

そう、自分に何度も言い聞かせる。

「っ……痛ぃ…」

「…ごめん、頑張ってー」

麻酔を打ち終わり、手袋を脱いで、さっきよりもグッタリしている朱鳥の頭を撫でる。

「ごめんね、痛いよね……あと、もう少しだから我慢してね?」

「…っ……ヒック………グスッ…」

朱鳥は、泣いているばかりだ。

「……ごめんね」

そう言ってから、また手袋を履き直す。

「朱鳥、本番の針刺すからね。痛くはないけど、少しグリグリするよ」

力を入れて、針を刺していく。

その間も、朱鳥は、嗚咽を零しながら泣いている。

「よし、じゃあ最後に5秒だけ我慢だよ。3、2、1で髄液抜くからね。いくよ?」

コクン

「3、2、1……」

注射器のピストンを引いて髄液を抜いていく。

「っ!!………痛いよぉ…」

「ごめんね」

すると、朱鳥は微かに動いた。

「ごめん、危ないから、動かないで!!」

そう言うと、朱鳥は泣きながら口を開いた。

「……ふ………ま…グスッ…………は…………く…」

「え?」

俺が驚いたのもつかの間、朱鳥は口元に手を当てた。

「橘さん!!」

「はいっ!!」

橘さんも何があったのか気付いたようで、検査室に備え付けの吐く用の桶を持ってきてくれた。

俺も、急いで針を抜いて止血をする。

それから、朱鳥はしばらく苦しそうに吐いていた。
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