ある雪の降る日私は運命の恋をする
ノックをしないで朱鳥の病室に入る。

「グスッ…ヒック……ハァ…ハァ……」

朱鳥は陽向が言ってた通り、かなり泣いているみたいだ。

「朱鳥、どうした?」

そう言って、朱鳥を抱き上げる。

「……グスッ…やだ!!やだ!!やだ!!」

「ん?何が嫌だ?」

「もう嫌なの!!全部嫌っ!!」

泣きながら、必死にそう叫ぶ朱鳥。

「朱鳥、どうした?どうして、そんなに嫌なの?」

「グスッ…もう、無理。無理なのっ!!全部、全部嫌!!」

なかなか話してくれない朱鳥に、少しだけイライラしてしまう。

でも、朱鳥の為なら……

と思う自分と

こっちは疲れてるんだから……

という2つの気持ちが重なってイライラする。

「はぁ。朱鳥、何が嫌なの?教えて?」

「嫌なのっ!!こんな自分も、この体も、治療も、病院も、病気も、全部、全部嫌っ!!」

「……でも、嫌って言ったって、朱鳥が頑張らないと治らないんだよ?」

「でも、嫌なのっ!!嫌!!グスッ…こんなに辛いのは、楓摩にはわからないよっ!!」

その時、俺の心が少しピリッとしたのがわかった。

"辛さ"が俺にはわからない?

俺だって、こんなに怠くて体調悪いのに頑張ってやってるんだよ。

頑張って、頑張って、頑張って、辛くても頑張ってるんだよ。

そう、言いたかったけど、その気持ちは我慢した。

「もう、嫌だ!!こんなに辛い事しかないなら、こんな世界無くなればいいのに!!こんな世界なんて、私嫌だ!!死にたい!!!!」

プチンと俺の堪忍袋の緒が切れた。

朱鳥をベッドに下ろして座らせる。

「ねぇ、朱鳥、死にたいって…なに?朱鳥は、そんなに死にたいの?ここには、生きたくても死んじゃう人がいっぱいいること、朱鳥ならわかってると思ってた。そんな事いったらダメな事くらいわかると思ってた。でも朱鳥には、わからなかったんだね。残念。」

「……ぇ………ぅ…あ…………」

少し強めに朱鳥を睨みつける。

すると、朱鳥はまたさらに涙を多く流して布団に隠れようとした。

だけど、俺はそれを阻止する。

布団を取り上げて、朱鳥をもう1度座り直させる。

「朱鳥、泣いたら許されると思った?俺はさ、朱鳥が怒られるの苦手なのは知ってる。だから、極力怒らないようにはしてた。だけどさ、言っていい事と悪い事があるでしょ?朱鳥は、もう高校生だよね?だったら、それくらい区別つくでしょ?朱鳥が今、辛い時期なのはわかるけど、それをそういう言葉にするのは間違ってる。だから、さっきの言葉取り消して。」

「……ごめんなさい…」

「なに?」

「ごめんなさい…グスッ……ごめんなさい…ヒック……ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」

はぁ……

ダメだ。

イライラが収まらない。

朱鳥がこんなに泣いているのに、俺はまだ許せない。

「朱鳥、謝ってって言ってる訳じゃないの。さっきの言葉を取り消してって言ってるの。わかる?」

「ヒック…ごめんなさい…グスッ」

「だからさ……。てか、なんで泣いてるわけ?本当に反省してる?また、泣けば許されるって思ってるんじゃないの?」

「……違っ」

「どーせ。俺の事なんだから、泣いときゃ許されると思ってるんでしょ?俺、朱鳥がそんなズルイ奴だとは思ってなかった。」

「……ごめんなさい…」

「さっきから、"ごめんなさい"ってさ、誰に言ってんの?俺?……だとしたら、おかしいね。謝るのは俺じゃなくて他の患者さん。必死に生きようとしてる患者さんに謝って?」

「ごめんなさぃ…」

「…………だからさ、俺が言ってるのは…」

「ごめんなさい!!」

そう言って、朱鳥は俺から布団を取って布団に潜った。

「……朱鳥、あのな…………」

「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ…………ハァ…ハァ…ヒック……」

「泣くなって言ってるじゃん……」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。やだっ!!楓摩、やだっ!!」

「………………」

「ヒック……ハァハァ…ヒック…ヒック……ハァ…ハァ……」

俺、今、何やってたんだ?

なんで、こんなに朱鳥を泣かせてるんだ?

なんで……

その時、目の前がグラリと揺れた。

ドスンと床に尻餅をつく。

俺の目からは涙が出た。

なんで、俺、朱鳥を泣かせてるの?

自分の気分で人を泣かせてる……

俺、最低だ。
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