ある雪の降る日私は運命の恋をする
家から出て、楓摩の車の助手席に乗り込む。

「よし、じゃあ行こっか。」

楓摩は、さりげなく片方の手で私の手を握っていてくれる。

楓摩は、いろんな話で私の気を紛らわせてくれたけど

緊張で、あまり内容が頭に入ってこなかった。

病院が近くなってきた。

心なしか震えてきた気がする。

「朱鳥、もうすぐ着くよ。」

楓摩は、握っていた手をさらに強く握ってくれる。

大丈夫。

私には楓摩がついているから。

大丈夫。

きっと、大丈夫。

そう、自分に言い聞かせる。

「朱鳥、着いたよ。降りよっか。」

駐車場で楓摩の車から、降りて病院へと向かう。

向かっている間も、楓摩はずっと私の手を握っていてくれた。

いよいよ病院を目の前にして、足が止まる。

行かないといけないのはわかっている。

だけど、足が動かない。

「朱鳥、大丈夫。まだ、なにもしないから。大丈夫だよ。」

「……うん」

楓摩に迷惑かけちゃう。

だから、行かないと……

足が震える。

行かなきゃダメ。

行かないとみんなに迷惑をかける。

行かなきゃ……

「朱鳥、無理しなくてもいいよ。やっぱり、怖いよね。足、動かないかな?それなら、俺が抱っこしてもいい?」

コクン

黙って頷く。

「それじゃあ、抱っこするね。よいしょ」

楓摩は、私を軽々と持ち上げると、私を抱っこしたまま病院へと連れていった。

病院の怖さから、自然と震えてきて、涙が出そうになる。

ギュッと目を瞑り、自分を落ち着かせようとする。

楓摩は、私の背中をポンポンっと優しく擦りながら歩いてくれている。

いっぱい、迷惑かけちゃった……

ごめんね、楓摩。
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