神恋〜恋に落ちた神と巫女〜
「行くな」
誰かに腕を掴まれ入ることは阻止された。
振り返ると、そこには背の高い男性が居た。
見知らぬ顔、見知らぬ男だ。
知らないはずなのにどこか懐かしさを感じさせる不思議な人だった。
私は巫女だから着ているものは皆んなと違うけど、この人は神主でもないし、神職でも無いのになんだか不思議な身なりだった。
薄水色の着物に紺の羽織り。
昔に出て来そうな身なりだった。
髪は長く簪(かんざし)で緩く結ってあった。
一言でまとめてかっこいいと言うより美しかった。
「月夜、ここへは来るな入るなと言われていただろ」
「言われてない‥ってかあなたは誰ですか」
ため息をこぼすその男性は私の目を見てはっきり言った。
「水神だ」
みず、がみ。
私がずっと見守ってくれている信じていた水無月神社の神様。
それが、この男の人?
私の名前を知っているし、身なりも不思議だし、お母さんの事も知っていた‥。
本当にこの人は、
「嘘つき」
「神に嘘つきとはなんだ」
「ただのコスプレでしょ。名前はどっかから聞いて知ったんでしょ」
おふざけはこれでおしまい。
結局この人のせいで、あの綺麗な声の女性には出会えなかったし。
(何なのよ‥‥)
本殿前へと戻り、落ち葉を私は掃除し始めた。
「月夜、お前は」
「気安く私の名前呼ばないでお兄さん」