神恋〜恋に落ちた神と巫女〜
「っ‥けほっ‥‥けほっ‥‥」
「月夜!!」
「このバカがっ‥‥心配させるな‥」と強く抱き締める奏からはいつもの余裕が感じられなかった。
着物も結わった髪も簪が取れ濡れていると言う事は、深い湖に落ちた私を助けるために飛び込んでくれた証拠だ。
「ごめんなさい‥‥ごめん‥」
私はあの心地よい湖の中で、心のどこかで死ぬことへの恐怖を覚えたんだ。
死にたくないと心から思った瞬間だった。
「人があそこへ落ちたらどうなると思う。苦しくどうにもならない水の中でもがき、最期には酔ったように心地よさを覚え理性すら持ってかれるんだ」
ああ、だからあの時心地良かったんだ。苦しいのにものすごく心地良かった。
死の一歩手前だったって訳か。
私が今こうして生きる事が出来るのは、奏が印を付けてくれたから。
奏が助けてくれたから。
そう思った途端に私は急に怖くなった。
その恐怖をどうにか無くしたくて必死で私は奏を抱き締め返した。
抱き締めたと言うよりしがみ付いた、の方が適切かも知れない。
あの巻物は、私が落ちた時に底へ落ちてしまったのか見当たらなかった。