神恋〜恋に落ちた神と巫女〜
それは徐々に一つの音楽を奏でていく。
私はこの光景を前にも何度か経験してると思った。
隣にある縁側に誰かが腰掛けていて、私はその人のために琴を演奏していた。
そんな記憶が弾きながら流れていく。
瞬間、悲しいとか寂しいとか懐かしいとかそんな感情ではない何かが私の胸を締め付けた。
止めどなく溢れるその涙は確かな愛情からだった。
愛おしい、そんな気持ちを込めて私はいつもこの琴を弾いていたんだ。
「お前の弾く琴は美しいな」
縁側に腰を掛け目を閉じながら音の余韻に浸る奏がいた。
いつここに来たのか。
私の弾く琴をさっきからずっとここで聞いていたのか。
私は奏を見つめた。
長いまつ毛、形の良い唇、腕を組む姿。
(奏にも愛する人、いるのかな)
「なぜ泣く」