神恋〜恋に落ちた神と巫女〜


きっと私は、今から舞を舞うんだろう。


こんな素敵な本装束が他にあるだろうか。

姫巫女の姿を一度で良いから、家族に見せたかった。


重量のある着物は歩くたびに「さっさっ」と織り物を引きずる独特な音がした。


姫巫女として扇舞や鈴舞をした事は無いし、誰かに教わった事もない。

そんな私が舞を舞えるだろうか。

そんな不安で押し潰されそうになったけど、きっと大丈夫だ。


目の前には息絶えた奏がいる。


奏は、私が死ぬことが1番怖いって言ってた。

私も、奏が死ぬことが1番怖いんだよ。


(もう、誰も居なくならないで‥‥)


それが私の本心だった。

涙で濡れる頬から落ちる雫。
それが床に落ちる度に、まるで水面に雫が落ちて行くような音が響いた。


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