Locked room of noise~音の密室~
「あら、見て!花火だわ!」
真子のはしゃいだ声。それに続いて、ガラッと戸が開く様な音がした。誰かがベランダ側の窓を開けたらしい。パーンパーンという炸裂音が少し大きくなった。
「綺麗。先生もこちらにいらっしゃいません?」
そんな声がした。窓を開けてベランダに出たのは真子の様だった。
「あら、お嫌いですか?コーヒー。それとも、インスタントではお口に合わないかしら。」
しばらくして、部屋に戻って来たらしい真子の声がした。
男の返事はなかった。部屋の中は奇妙な沈黙に包まれていた。コンポから流れるピアノクラシックだけ聞こえてくる。
「変だわ……。」
やがて、真子の呟く様な声がした。
「先生、まさか、この中に……。」
それが、私が聞いた彼女の最後の声だった。