雪解け花咲く

キブシ

何気なく空を見る。前に授業で習ったな、そういや。風光明媚とはこういうのをいうんだろうな。この空は本当に綺麗だ。私が言うから間違いない。
この空で飛んでみたい。そう考えた私は目を閉じる。目を閉じただけで仮想空間に行ける私の想像力は安いものだ。羽が生えた私は鳥の群れに目がけて一気に羽ばたく。綺麗な空の中で風を感じる。心が安らいでくのが心地よい。
しかし、突然周りが暗くなる。私の仮想空間が闇に飲み込まれていく。鳥の群れは消え、私は一人になる。
「やめて。」
羽はちぎれ、体は真っ逆さまに落ちていく。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「テスト用紙を後ろから集めてきてくれ」
その先生の一言で私は現実に引き戻される。
　えっ、うそ。いつ、チャイム鳴った？　テスト中だと忘れていた私は急いで残りの解答欄を埋めようとするが一番後ろの席の男子が徐々に近づいてくる。もちろん、間に合うはずもなく男子が私の横につく。
　「もう集めるからあきらめろって」
男子の嫌みったらしい言い方が鼻につく。
「はいはい、どーぞ」と私はテスト用紙をしぶしぶ渡しながらため息をつく。大体、先生も先生だよ。終了五分前とか教えてくれてもいいじゃんか。行き場のない怒りを先生にぶつけるように睨めつける。
すると、誰かを探すように首を回している先生と目が合う。あっ、やば。露骨に目線を足元に移す。
「入江　花！」
「は、はい」
急に出した大声とあたふたした声にクラスの視線が集まる。
「お前、テスト用紙に名前書いてないぞ。先生が名前書いとくからな」という先生の言葉で体の力が一気に抜ける。はぁー、その程度で大きな声出さないでよ。自分で書くならなおさらじゃん。
「よし、もう帰っていいぞ。明日もテストあるんだから寄り道せずに家に帰るんだぞー」
その言葉に生徒達は心なしの返事をして自分達の話に戻す。テスト終わりのざわざわは工事現場の騒音に引けを取らないぐらいにうるさい。
「スタバ新作出たんだってー」自販機でジュースでも買えよ、スーパーでも可。
「帰りマックで勉強しようぜ」家でしたらいいじゃん、どうせどこでもしないんだし。
「お願い、ノート見せて！」自分でしなよ、他力本願女。
他人の会話一つ一つに心の中で捻くれたツッコミを入れていく私は本当に性格が悪い。嫌な自分の発見に肩を落としつつ、帰る準備のために鞄に荷物を詰めていく。その時、歩きながらの会話に夢中な男子生徒と肩がぶつかる。
　「そういやさー、テストどうだったよ？」「絶対赤点だわ、マジで」と言いながらゲラゲラ笑っている男子生徒の背中に睨みをきかせる。いやいや、謝るのが先でしょ。怒りを言葉に出すことができない私は体の中に飲み込む。
　「点数悪すぎて死にてー」という男子生徒の言葉が私の行動を鈍らせる。
　「・・・死ぬ気なんてないくせに」と今度は声に出した私の声は周りの声にかき消される。
　そうだ、今日なんだ。もう決めたんだ。