雪解け花咲く
三階に着くとすぐさま屋上への階段へ目をやる。『生徒立ち入り禁止』と書かれた黄色いテープにより階段は封鎖されている。よくニュースなどで見かける規制線が事件性を匂わせるがそういうわけではなく、屋上の危険性を示唆した先生たちの行動の結果である。さっきの階に比べて、この階は少しひんやりしているように感じる。気温が低いせいか私の気持ちの問題か、目を外に向けると全身で感じる春陽、答えは明確、後者のほうだ。
すると、美術室から光が漏れていることに気づく。太陽の光ではなく蛍光灯による白い光だ。明日もテストがあることを考えると部活生とは考えにくい、美術の先生が作業でもしているのだろうか。隠れている訳でもないが私は忍び足で美術室に近づき、廊下から教室の中を覗き込む。見る限り人影はない、誰かが電気を消し忘れたのだろうか。私が三階に来た目的は美術室に来るためではないが誘い込まれるように教室の中に身を運ぶ。
教室に入ると、やはり、人の姿はないが人がいた形跡は残っていた。
机の上には毛先の広がった筆、無造作に置かれた絵具、使い古されたパレット、水が濁っていない水洗、茶色いイーゼルには何も描かれていない画用紙が掛けられていた。
こう見ると、不可解な点が一つある。画用紙には何も描かれていない、それなのに題名がつけられている。
『雪解け草』
なにこれ、草? 全く知らない。
知らないことがある事には何も問題はない。たかが高校生、知識には限界があるしこれから身に付くほうが明らかに多い。自分が無知という事は十分理解している。
聞いたこともないし見たこともなければ想像もつかない。なのに、なのに、涙が止まらないのは、なぜ?
気づかないうちに記憶喪失? 二重人格による博識深いもう一人の私?
私はすぐさま教室を飛び出て走り出す。わからない、わからないけど私の中で何かが芽生えた。それは、白くて暖かいもの。
昔の私が欲しくて、探して、手に入れられなかったもの。
今の私が忘れて、捨てて、拒むもの。
屋上への道を塞いでいる規制線を飛び越え、階段を駆け上がる。屋上への扉は想像通りの汚さにどこか埃っぽい。知らぬ間に涙は消え、心に波が打ち付けてくることもない。呼吸を整え、錆びついたドアノブを握りしめて噛みしめるように開く。昼に近いこともあり、先ほどよりも激しく日差しが照り付ける。
絶好の自殺日和だ。
すると、美術室から光が漏れていることに気づく。太陽の光ではなく蛍光灯による白い光だ。明日もテストがあることを考えると部活生とは考えにくい、美術の先生が作業でもしているのだろうか。隠れている訳でもないが私は忍び足で美術室に近づき、廊下から教室の中を覗き込む。見る限り人影はない、誰かが電気を消し忘れたのだろうか。私が三階に来た目的は美術室に来るためではないが誘い込まれるように教室の中に身を運ぶ。
教室に入ると、やはり、人の姿はないが人がいた形跡は残っていた。
机の上には毛先の広がった筆、無造作に置かれた絵具、使い古されたパレット、水が濁っていない水洗、茶色いイーゼルには何も描かれていない画用紙が掛けられていた。
こう見ると、不可解な点が一つある。画用紙には何も描かれていない、それなのに題名がつけられている。
『雪解け草』
なにこれ、草? 全く知らない。
知らないことがある事には何も問題はない。たかが高校生、知識には限界があるしこれから身に付くほうが明らかに多い。自分が無知という事は十分理解している。
聞いたこともないし見たこともなければ想像もつかない。なのに、なのに、涙が止まらないのは、なぜ?
気づかないうちに記憶喪失? 二重人格による博識深いもう一人の私?
私はすぐさま教室を飛び出て走り出す。わからない、わからないけど私の中で何かが芽生えた。それは、白くて暖かいもの。
昔の私が欲しくて、探して、手に入れられなかったもの。
今の私が忘れて、捨てて、拒むもの。
屋上への道を塞いでいる規制線を飛び越え、階段を駆け上がる。屋上への扉は想像通りの汚さにどこか埃っぽい。知らぬ間に涙は消え、心に波が打ち付けてくることもない。呼吸を整え、錆びついたドアノブを握りしめて噛みしめるように開く。昼に近いこともあり、先ほどよりも激しく日差しが照り付ける。
絶好の自殺日和だ。