吐息のかかる距離で愛をささやいて
「なぜ、今日の昼までに仕上げといてって言った資料ができてないの?」


私の問いに目の前の彼女は答えない。


いや、答えられないのか?


少しうつむいているせいで表情はわからないが、若干震えているようにも見える。



「怒ってるんじゃないのよ?出来ないなら出来ないともう少し前に相談して欲しかったのよ。」



いくらか口調を弱めてたところで彼女の反応は変わらなかった。
ただ、うつむいて震えているだけ。


周りのみんなは、仕事をしているように見えてこちらの様子をうかがっている。



みんな思ってる。『橘がまた若い子をいじめてる』って。



「もういいわ。こっちでやっとくから。あなたは自分の仕事に戻りって。」


そういうと彼女、新田さんは頭をペコッと下げて自分のデスクに戻っていった。



新田さんがデスクに戻ると、周りのみんなが何やら声をかけている。



チラチラと向けられる視線が私を責めている。



間違ったことは言っていない。
言い方にも気をつけたつもりだ。


それでもまだ何か足りないらしい。
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