吐息のかかる距離で愛をささやいて
「俊・・・くすぐったい」


俊が私の首筋に顔をうずめる。温かい舌の感触の他にチクチクする髭の感触がくすぐったい。


くすぐったさに身をよじるが、俊が辞める気配はない。



「くすぐったいってば」


たまらずに手で防ぐ。手のひらにチクチクとした髭の感触がする。



俊は面白そうに眼を細め、私の手首をつかんでそこに顎をすりつけた。


首ほどではないが、やはりくすぐったい。


くすぐったさに、もう一方の手で俊の頬を抑えてつけた。



「何で、髭そってないの?」


「うーん。忙しかったから?」


「親子丼作る暇はあったのに?」


「あぁ」


「お風呂ピンクにする暇はあったのに?」


「あぁ」



苦笑する私に「もういいだろ?」と俊がグッと引き寄せた。


そのまま唇が重なる。



そのままベットに押し倒される。



「バラの匂いのおっさんはゴメンだけど、バラの匂いのする夏帆はいいな。」


耳元でささやかれ、俊の大きな筋ばった手が私の体を撫でる。


自分の体温が上がっていくのがわかる。



私たちは、恋人ではない。でもただの同居人でもない。


こうなったきっかけは、会社で嫌なことがあった私のヤケ酒に付き合わせて、そのまま・・・といたってありがち。

だから、私たちの間に『好きだ』とか『愛してる』とかいう言葉はない。


ただ、俊は抱くときでさえ、私を甘やかせる。


何も言わなくても私の望んでいることがわかるらしく、じらすこともせずにただひたすら快楽を与えてくる。



ふと俊と目があった。



熱に浮かされてるような感覚の私とは違って、俊はどこか余裕のある笑みを浮かべている。



この男はいつもどこか冷静だ。


それが私は悔しい。自分の欲望をぶつけるのではなく、ただひたすら奉仕するように私を抱く俊にいらだつのは、なぜだろう。


もっと自分をさらけ出してほしい、そう思うのに言えないのは、きっと臆病になったからだ。


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