吐息のかかる距離で愛をささやいて
「夏帆?」


瑞穂の声で我に返った。


心配そうな表情で瑞樹は私を見ていた。



「どうしたの?ボーっとして。何かあった?」


「ううん。別にただちょっと考え事をしてただけ。」



「そう。」



そう言った瑞穂は涼子の方を見て、二人で目配せした。


「何?」


二人の間に流れる空気に違和感を覚えた私は、二人に尋ねた。




「ねぇ、夏帆。今、高校時代の同級生と暮らしてるって言ってたわよね?」


「えぇ。そうだけど。」



二人には、俊の家に居候させてもらっていることは話してあった。

俊とは面識はないが、高校時代の同級生で、一応、男だということも言ってある。



「その人とはどうなの?」


「どうって?」


質問の意図が不明だ。


「だからさ、健全な男女が5年も一緒にいるわけでしょ?何か進展ないの?」


「進展・・・・」



今朝、隣に誰もいなかった寂しさがよみがえった。



「ないわ。」


きっぱりと言い切る私に、二人はまた顔を見合わせる。



その行動にイライラした。



幸せいっぱいな瑞穂と最近彼氏ができた涼子。自分達だけが幸せなのが心苦しくて、私と俊に何かあるのを期待しているのだろうか。


それならほっといてほしい。



そんな思いにとらわれていると、私が苛立っているのに気づいたのか、二人は困った顔で見合わせた後、涼子が意を決したようにいった。



「田内健二、こっちに帰って来るわよ。」


予想外の言葉に私は固まった。




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