吐息のかかる距離で愛をささやいて
昨日に引き続き、重たい身体を引きずって家路につく。


昨日のように仕事が立て込んでいたわけではないが、何となく仕事に集中できなくてずるずると時間がかかってしまった。



家について、ほっと一息つく。


「ただいま~」


そう声をかけてリビングに行くと、昨日のように扉が開いて俊が顔を出した。



俊の顔見て、固まった。


格好こそ昨日と同じ首元が緩みきったTシャツを着ているが、髭がない。



髪の毛も、一度ワックスか何かで整えたのを手櫛でほぐしたのだろう。いつものぼさぼさ頭とは違い妙に色気がある。見紛うことないイケメンだ。


そんな俊を見るとなぜか落ち着かない気持ちになった。



「おかえり。」



「ただいま。どうしたの?今日、どこか出かけたの?」



俊から顔をそむけ、何事もないように問いかけた。



「あぁ。ちょっと知り合いと会いにね。」


「そう。」


「夏帆、ご飯は?」


「俊こそ、食べたの?」


「あぁ。ごめん。外で食べた。」


「そう。」


「ごめん。連絡すればよかったな。」


「いいよ。べつに。お風呂入るね。」


まだ何か言いたげな俊を無視して私は自分の部屋へと入った。



扉を閉めるとなぜかため息が出た。




俊が外出することは珍しいがないことじゃない。



ご飯だって用意していない時もある。




特別変わったことはないのに、なぜかモヤモヤが収まらなかった。



コントロールできない自分の感情に苛立つ。



自分で自分がわからない。
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