吐息のかかる距離で愛をささやいて
『げっ!』と顔に書いてある鈴木さんと日野さんを一瞥してから、私は横山さんに目を向けた。


彼女はバツの悪そうに私から目を背ける。



手を洗うべく洗面台に向かうと、鈴木さんが場所を開けてくれた。



「横山さんっていくつだっけ?」


「29です。」


鏡越しに見ながら問う私に、彼女は忌々しげに答えた。



「そう。」



私は、少し笑った。


それを見た横山さんの表情が険しくなる。


「鈴木さん、日野さん。」


「「はい!!」」


「これからは、個室に誰もいないことくらい確認しなさい。」


「「っ!!」」



絶句する二人を見ることなく、私は横山さんの横をすり抜ける。



すれ違う直前まで私は横山さんから目を離さなかった。


彼女も私から目を離さなかった。



30前に何かあった女と、30前に何もない女。どちらが惨めか。



そんな不毛な考えが頭をよぎっていた。
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