吐息のかかる距離で愛をささやいて
結局、新田さんがやるはずだった資料作成に午前中すべての時間をさいた私は、22時を過ぎて退社した。


昔のことを思い出したからか、それともただの疲れか重たい足を引きずって駅からの道を歩く。



最寄りの駅から徒歩5分にある高層マンションの一室の扉を開けた。



扉を開けると、美味しそうな食べ物の良いにおいがする。



私はそこでやっと自分の空腹を自覚した。





リビングに着くと、そこから通じる部屋の扉がガチャっと開いた。




無精ひげに、メガネの男が顔だけのぞかせている。



「おかえり。飯、食う?」



「ただいま。先にお風呂にする。今日のご飯何?」



「親子丼。」



「わかった。」



彼が顔を出した扉の横の扉を開ける。



素早く支度をしてバスルームへと向かう。



途中、キッチンを通るときに、鼻歌を歌いながら作業する後ろ姿を横目で見ながら。




バスルームに入って思わず笑みがこぼれた。



余裕で足が伸ばせる広いバズタブに溜まったお湯がピンク色だったからだ。しかもバラの香り。



思わず笑みがこぼれた。



< 7 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop