吐息のかかる距離で愛をささやいて
「橘は・・・出張帰り?」


スーツにキャリーバック姿の私は、そう見えるだろう。



「・・・・違う。」



「え?違うの?今から出張?」



「それも違う。」



たぶん、この時の私は、平静を装っていたけど、傷ついて、取り乱して、冷静な判断ができていなかったんだと思う。じゃないと、10年ぶりにあった高校のクラスメイトに婚約破棄の話なんてするはずがない。



駅前の花壇の横のベンチに座り込み、全部を聞いた水沢君はしばらく考えた後、言った。



「うちに来る?」



その提案に気づけば頷いていた。



もう一度言うけど、この時の私は、平静を装っていたけど、傷ついて、取り乱して、冷静な判断ができていなかったんだと思う。じゃないと、10年ぶりにあった高校のクラスメイトの提案にのるはずがない。



こうして、私は水沢君の家に居候することになった。



駅に近くて、広くて、寝室は別。たまに夕食もついてくる。そんな快適な暮らしは、『あれ?やっぱり駄目じゃない?』と冷静な判断ができるようになる頃には手放せなくなっていた。



あれから5年。


小学校時代よりは短く、大学時代より長いこの年数。
小学校時代は長く感じたのに、大学時代はあっという間だった。つまり何が言いたいかと言うと、ワーカーホリックなアラサー女の5年は意外に短いと言うことだ。
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