密かに恋焦がれて
プロローグ


公園近くの空き地に大きな犬がいた。

その茶色い大きないかにも獰猛そうな犬は私に向かって吠えたてている。


やだぁ~……グスンッ、こわいよ……お兄ちゃん……たすけて……


怖くて立ちすくんで動けない。
周りに助けてくれそうな大人はいなかった。


お兄ちゃん……お兄ちゃん


犬は今にも飛びかかりそうだ。公園にはさっきうちを出ていったお兄ちゃんがいるはず。届くように声を限りにして叫ぼうとした。


「おにい」


「叫ぶな」


誰かに口をふさがれ。
その人は犬と私の間にスッと入って来た。


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