密かに恋焦がれて
暫く歩くと見覚えのある建物に着いた。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ?」
「うん、ありがとう……あっ、お兄ちゃんに会ってかない?最近一緒に飲みに行ってないでしょ?」
「そうだな、康也忙しいみたいだし。とうぶん飲みには行けないってメール来てた」
「うん、毎日残業してる。たまには家でご飯食べて行けばいいのに昔みたいに。うちの両親ヒロが来たら喜ぶよ」
「あぁ、また今度な。じゃあな」
「……うん、またね」
ヒロが曲がり角を曲がるまでその背中を見送った。
私がここでどんな気持ちで見送っているかなんてヒロはまるで気付いてない。
五分は延ばせたかな……。
くるっと回って向きをかえて玄関へ向かう。
「お兄ちゃん!帰ってたんだ」
中に入るとちょうど兄がいた。
「今ねぇ、ヒロに送ってもらったとこなんだよ。私は大丈夫って言ったんだけどね」
「そうか」
兄は私の頭をポンポンと触れてから先に入っていった。