密かに恋焦がれて

「……近づかないでっ」

「すみませんでした」

「島崎はここで帰って」

「本当にすみませんでした。もうしませんから家まで送らせて下さい」

「いらない帰ってっ!」

「でも……」

首を振って否定すると島崎を残して歩いて行く。
琴美のなかでは島崎はいつだって会社の後輩だった告白をされたときもデートをしたときも。
だから無防備でいられた。
でも島崎は男なんだと琴美の認識が変わったとたんに怖いとさえ思ってしまった。


家の近くまで来たとき後ろから車のヘッドライトが辺り脇に避けるとその車も止まり振り返ると


見覚えのある車だった。
ヒロ!

車から乗れよと声が掛けられた。
立ちすくみ動かない琴美に車から降りたヒロは「話がある」と腕をとり助手席まで連れて行った。

「私、疲れてるんだけど」

「少し話すだけだ」

琴美が乗ると車は邪魔にならない端の方に停まった。
ライトの明かりを消しエンジンを止めた車内はとても静かだ。














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