痛快! 病ンデレラの逆襲
冷たい……気持ちいい……。
「姫……姫……」
誰? 私を呼ぶのは。このまま眠らせて、凄く眠いの。
「姫、姫宮姫乃! 大丈夫か」
どうしてフルネームで呼ぶのですか、社長。
ん、社長?
重い瞼をゆっくり開ける。
定まらぬ焦点の先に……あら、本当に社長だ。
エッ、どうして!
「起きたか、何度呼んでも目覚めないから死んだのかと思ったぞ」
勝手に殺さないで下さい。
「社長、何をしているのですか? それより、どうやってこの部屋に入ったのですか!」
「そりゃあ、大家に開けてもらったに決まっているだろう。いくらボロ家でもドアを壊したら犯罪だからな」
まぁ、あれぐらいのドアならひと蹴りで壊せるが、と物騒なことを言う。
「社長で婚約者だと名乗り、倒れているかもしれないと言ったら速攻で開けてくれたぞ、やっぱりセキュリティが甘いな。なっていない!」
なるほど。相変わらず卒がない。
しかし、セキュリティって……。
「でも、社長、いくら何でも女性の部屋に黙って入るのはどうかと思いますが」
「黙っても何も返事がなかったから仕方なくだ。それに俺は婚約者だ」
ダメだ! これ以上の言い合いは不毛だ。
「社長、悪いですが、もう黙っていてもらえません」
「起こしといて何だが、じゃあ、添い寝をしてやる。もう一度寝ろ」
「それも要りません、お帰りを!」
「バカか、お前一人残して帰れない」
もう、頭痛い。
目を瞑ると社長が布団に中に入ってきた。本当に添い寝をするつもりだ。
反抗する元気もない。
私の首の下に腕を通し、腕枕をすると私を胸に抱く。
そして、背中をポンポン叩き、「ゆっくり休め」と優しい声で言う。
トクトクとリズム良く刻む心臓の音が心地いい。それにとても温かい。
擦り寄るように社長の胸に顔を寄せ、キュッと彼のワイシャツを握る。
お母さんみたい……。
「誰がお母さんだ!」
夢の中に突入する前に、そんな言葉が聞こえた。