痛快! 病ンデレラの逆襲

『撤退は迅速に!』が信条の主任の動きは速い。
最後の荷物をケータリングカー『ケータ1号』に運ぶと、主任が申し訳なさげに荷物を受け取る。

「悪い、ミニキッチンにケーキサーバーを忘れたみたいだ。二つ足りない。持って帰ってくれないか」

「はい、了解しました。ところで社長は? 私も主任と一緒に帰っていいのでしょうか?」

「それは駄目だろう。殿が怒る!」

主任はキッパリ断言する。

「とにかく、俺等は帰る。ケーキサーバーは明日でいいからな」

「じゃあ、おやすみ」の言葉を残し、薄情にも私を置いて帰ってしまった。
ポツンと非常口に残された私は仕方なく、また建物の中へと足を運ぶ。

もし、社長が帰ってしまっていたら……その時は会社のツケで豪華にタクシーで帰ってやる!

プンプンしながら廊下を歩いていると、「どうしてダメなの!」会議室と書かれたプレートの部屋から女性の怒鳴り声が聞こえた。

「お願い、好きなの。貴方じゃないとダメなの」

告白? こんなところで大胆だなぁ、と思いながら盗み聞きするのも悪いか、とその場を離れようとした時、「ねぇ、殿、お願い」誘うような甘い声が聞こえた。

殿? 社長のこと?

いけない、と思いつつ、わずかに開いたドアの隙間から中を覗き見すると……。
エッ! 美麗がしな垂れかかるように社長の首に両腕を回しキスをしていた。

ドクドクと心臓が激しく音を立てる。
ここにいては駄目! 心の声が早く立ち去れと命令する。

そうだ、私はケーキサーバーを持って帰るという使命がある。
それだけを思い、ミニキッチンに向かう。そして、サーバーを見つけると、急いで建物を後にした。

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