痛快! 病ンデレラの逆襲
玄関のドアを開ける。
真っ暗な部屋の奥、寝室の窓が見える。寒々とした部屋に、カーテンを閉め忘れた窓から冷たい月の光が差し込んでいる。
「ただいま」
いつもの癖で小さく呟く。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
エッ! 返事を期待していなかった分、その声に驚く。
「お千代さん?」
「はい、千代でございます。長い間留守にして申し訳ございませんでした」
「お千代さんだ! お千代さん、お帰り。会いたかったよ」
和室の襖を開け、お千代さんに抱き付く。
そして、その膝に頭を乗せ、腰に両手を回す。
「まぁまぁ、お小さい時と全く変わりませんこと」
お千代さんは私の髪をすきながら、「何かございましたか?」と遠慮がちに聞く。
「胸が痛いの。凄く苦しいの。病気なのかな」
「胸が痛い? それにはきっと原因がある筈です。そこに手を当て考えてみて下さい」
言われた通り、手を置く。
「目を瞑り、思い出してみて下さい。何が胸を痛めているのか」
目を瞑ると浮かんでくる。社長のキスシーン。
「お千代さん、社長がキスしていたの。私を好きだと言ったのに。私以外の人とキスしていた」
お千代さんが目元を拭う。
「その場面を見てしまわれたのですね。お辛ろうございましたね」
「お千代さん、どうして胸が痛いの? 苦しいの?」
顔を歪めるとお千代さんがポンポンと背中を叩く。
「お嬢様、それはお嬢様が社長様のことをお好きだからでございます」
私が……社長のことを……。
「よろしゅうございました。お嬢様は自分のお気持ちに気付かれたのでございますね」
お千代さんは泣き虫だ。泣くほどのことだろうか……。
頬にポトンポトンと落ちるお千代さんの涙はいつも温かい。
私はその涙に、いつも癒される。
「今夜は何も考えず、ゆっくりお休み下さい。千代がお側にいますから……」
「うん、凄く疲れた。ズット側にいてね。おやすみ、お千代さん……」