痛快! 病ンデレラの逆襲

病上がりだというのに、社長はご飯をお代わりしテーブルのおかずを全部食べ終えた。

洗い物をしていると、背後から社長の視線を感じ振り返る。
テーブルに頬杖を付き、実に楽しそうにこちらを見ている。
実に居心地が悪い。

「社長、テレビでも見ていて下さい。リモコンはテレビ台のそれですから」
「いやいい。お前の姿を見ていたい」

もう、何ですか、何かの罰ゲームですか!

「じゃあ、お暇みたいですので布巾で食器を拭いて下さい」

ヘッと社長が素っ頓狂な声を出す。

「俺が何をするって?」
「ほら、これでそれを拭くんです」

顎でこれとそれを指す。

「なるほど、食器を拭けばいいんだな」

社長が嬉しそうに横に並び、言われた通り拭いていく。

「こんなことしたの、初めてだ」
「はぁ? 社長、家でご飯食べないんですか?」
「週二回来る家政婦さんか、食洗器が全部やってくれる」

ああ、なるほど。『金』と『メカ』が解決してくれるのね。
フン、貧乏人への嫌味か、と卑屈になる。
拭き終わった食器を棚に片付け、シンク周りを綺麗に拭く。

「そんなことまで毎日しているのか?」
「水滴を付けたまま置くと水垢になっちゃうから、それが嫌なので」
「そう言えば、この部屋のどこよりもキッチン周りが一番綺麗だな」

昔からの癖だ。
口から入るものを作る場所が汚れているのは許せない。

次に許せないのはトイレが汚れていること。
特に飲食店のレストルームが汚いと、いくら美味しくても興醒めもいいところだ、二度とその店には行きたくない。

これら全てお千代さんの教えだ。

「だから、お前は仕事場でも常に白長靴を履いているんだな」

そんなに履いているかな、と考え、履いているか、と納得する。

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