痛快! 病ンデレラの逆襲

ボソボソと人の声が聞こえる。
酷い悪夢を見たような気がする。
ゆっくりと目を開けると、社長の腕の中だった。

「目覚めたか。気分はどうだ?」

優しい声が聞く。夢の中の意地悪な社長と大違いだ。

「姫、大丈夫?」

梨子さん?

「悲鳴が聞こえたから飛んで来たの」

悲鳴?
夢じゃなかったの?
社長がお千代さんはもうこの世にいないと言った。

「……梨子さん、社長がお千代さんは居ないって言うんです」
「……お千代さん? 誰?」

そうか、お千代さんは滅多に外に出ないし……知らないのも当然だ。

「一緒に暮らしている人です」
「あら、姫は一人暮らしじゃない」

社長が顔を歪める。

「姫、信じられないのは分かるが、本当のことだ」

目の端に仏壇が入る。三つの遺影。

「……お千代さんは……居ないの?」

喉に言葉が引っ掛かる。

「何だかよく分からないけど、殿宮社長、姫のことよろしく。私は帰るわ」

この場に居ない方がいいと思ったのか、ポンポンと私の肩を叩くと、優しい笑みを浮かべ梨子は部屋を出て行く。

「千代さんは居ない。これが現実だ。お前が現実を受け止め、前へ進むのを見守っていた。二年待ったが、これ以上放っておくと、お前の心が壊れると思った」

「お千代さんはいない……お千代さんは……いない」

胸が詰まり、喉が詰まり、息ができない。
助けて……。
ブルブル震える私をギュッと社長が抱き締める。

「大丈夫だ。俺が居る。何も心配しなくていい」

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