痛快! 病ンデレラの逆襲
10 病ンデレラの逆襲
落ち着きを取り戻し、全てを思い出した。
父母が亡くなり私はお千代さんと二人、ひっそりと暮らしてきた。
そう、お千代さんが心筋梗塞で亡くなるまで。
「お前は現実逃避した。哀しみを表に出さず閉じ込めてしまった。千代さんは言っていた。ご両親が亡くなった時も泣けなかったんだろう。千代さんに心配を掛けたくなくて」
そうだ……私は泣けなくなった。
朝、一緒にご飯を食べたのに、「いってらっしゃい」と笑顔で見送ってくれたのに、帰宅したらもうお千代さんは冷たくなっていた。
それがあまりに突然で、信じられず、ズット夢の中にいるようだった。
あっ、お千代さんが泣き虫だったのは、私の代わりに泣いてくれたから?
きっとそうだ。だから、幻影でも彼女の存在があったから、私はギリギリのところで精神を保ち、独りでも生きてこられたのだ。
「遊園地に誘ったあの日、お前は千代さんが閉じ篭って姿を見せないと言った。お前に心境の変化が現れたのだと思った。チャンスだと思った」
急に夜遊びしようと誘ったのはそんな思惑があったからか。
そう言えば、メープル荘の人々と交流が深まったあの夜から、お千代さんの姿が見えなくなった。
「千代さんが『留守をする』と言ったのは、お前に暗示をかけるためだった。案の定、お前はすぐに信じた」
ああ、そうだった。あれ以来、お千代さんの姿を見掛けなくなった。
「だが、花菱物産のレセプションパーティーの日、お前は見たんだろ? 俺が美麗に……キスされているのを」
コクンと頷くと社長は額に優しくキスをする。
「あれで、苦労が水の泡になると思った。お前は哀しみをまた閉じ込め、千代さんを呼び起こしてしまうと思った」
クソッと社長は美麗に向かって呪いの言葉を吐く。