痛快! 病ンデレラの逆襲

「お前に昔の暮らしを取り戻してやりたかった。それならお前も千代さんの幻影を拭い去り、前へ進めると思った」

「昔の暮らし……そんなの……要らない」

私が欲しかったのは……家族の温もり。

「ああ、お前と付き合っているうちにそれは分かった。だが、俺も男だ。お前には最高の幸せを与えてやりたい。男のつまらぬプライドだ」

本当だ。プライドなんて余計なものに振り回されると『愛』を忘れる。
そんなことより、もっと早く打ち明けてくれて側にいてくれた方が、どんなに嬉しかったか。

「でも、分かってくれるよな。俺が頑張ってきたのはお前のためだったと。褒めてくれるよな?」

それでも、社長の努力には敬愛の意を称する。

「だから、褒美が欲しい。お前だ」

社長は熱く瞳を光らす。
いくら鈍感な私でもその情熱が何を示しているかは分かる。
今にも襲い掛かろうとする社長に身の危険を感じる。

私はまだ混乱している。流されたくない。

「社長、なら、プライドをかけ、今すぐお仕事に行って下さい」

それでも速まる心臓の鼓動は止められない。
トンと社長の胸を押し、立ち上がる。
チッと舌打ちする社長を残し、顔を洗いに洗面所に向かう。

胸を押え、上気する頬を冷まそうと水道の蛇口に手を添え、鏡に目をやる。

ウソッ、何この顔!

ボサボサの髪、涙と鼻水でドロドロの顔。
鏡に映った自分の姿に呆然とする。

よくまあ、こんな顔にあんな甘い言葉吐けるものだ。
まさか、これが俗にいう『痘痕もエクボ』なのか? まさかねぇ……。

タオルで顔を拭きながら戻ると憮然とした社長が身支度を始めていた。

「とにかく、ここから引っ越し俺のところへ来い」

上着の袖に腕を通しながら社長が言う。
少し考え、首を横に振る。

「まだ、ここに居ます」

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