痛快! 病ンデレラの逆襲
だって、彼女たちがまだここに居るから。
「本当にお前は頑固だ」
フッと笑うと「後ろ髪を引かれるが、夕方また来る」と耳打ちしチュッと耳たぶにキスをする。
体がピクンと反応し、気持ちがくすぐったくなる。
私の方こそ……そんなことをされると離れ難くなる。
玄関先まで見送りに出ると社長の背中に「いってらっしゃい」と声を掛ける。
彼の動きが止まり、ガバッと振り向きギュッと私を抱き締める。
「いいなこういうの。新婚みたいだ。姫、行ってきます」
嬉しそうに言い、チュッとキスをし、もう一度私を抱き締め出て行く。
残された私はポケッと閉まったドアを見つめ、我に返ると一人悶絶する。
キャー! 甘い~!
全くあの男、私をキュン死させるつもりなのか!
プンプンしながらもニヤケながら洗濯機のボタンを押し、掃除にかかる。
お千代さんの……イヤ、仏壇の部屋の襖を開け、窓を開ける。
冷たい空気が流れ込み、淀んでいた空気が一掃される。
「本当にごめんなさい。ズット放っておいて」
肩越しに振り返り仏壇を見る。
三つの遺影が嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「気のせいじゃないよね」
真っ青な空を見上げ、ウーンと伸びをし、「さて、やりますか!」と掃除機を手にする。
「そうだ、夢子さんみたいに、この部屋にコタツを置こう!」
掃除が進むにつれ気持ちもスッキリしていく。
キュッキュッと最後の仕上げに仏壇周りを拭く。
「ハーッ、終わったぁ!」
ピカピカになった仏壇の前に座りジッと遺影を見つめる。
父母もお千代さんも微笑んでいる。
ジワジワ涙が溢れポロポロ零れ出す。
「……安心して、もう泣けるようになったから。ちゃんと人間に戻ったから」
ピーピーと洗濯機の呼ぶ音がする。
両手を合わせ、掌で涙を拭くとスックと立ち上がる。
「私も前へ進みます! メープル荘の皆みたいに! だから見守っていてね」
力が漲っていく。明るい未来の扉が開く。
ニッコリ笑い、私は次々と家事を熟していく。