痛快! 病ンデレラの逆襲

だって、彼女たちがまだここに居るから。

「本当にお前は頑固だ」

フッと笑うと「後ろ髪を引かれるが、夕方また来る」と耳打ちしチュッと耳たぶにキスをする。

体がピクンと反応し、気持ちがくすぐったくなる。
私の方こそ……そんなことをされると離れ難くなる。

玄関先まで見送りに出ると社長の背中に「いってらっしゃい」と声を掛ける。
彼の動きが止まり、ガバッと振り向きギュッと私を抱き締める。

「いいなこういうの。新婚みたいだ。姫、行ってきます」

嬉しそうに言い、チュッとキスをし、もう一度私を抱き締め出て行く。
残された私はポケッと閉まったドアを見つめ、我に返ると一人悶絶する。

キャー! 甘い~!
全くあの男、私をキュン死させるつもりなのか!

プンプンしながらもニヤケながら洗濯機のボタンを押し、掃除にかかる。
お千代さんの……イヤ、仏壇の部屋の襖を開け、窓を開ける。
冷たい空気が流れ込み、淀んでいた空気が一掃される。

「本当にごめんなさい。ズット放っておいて」

肩越しに振り返り仏壇を見る。
三つの遺影が嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「気のせいじゃないよね」

真っ青な空を見上げ、ウーンと伸びをし、「さて、やりますか!」と掃除機を手にする。

「そうだ、夢子さんみたいに、この部屋にコタツを置こう!」

掃除が進むにつれ気持ちもスッキリしていく。
キュッキュッと最後の仕上げに仏壇周りを拭く。

「ハーッ、終わったぁ!」

ピカピカになった仏壇の前に座りジッと遺影を見つめる。
父母もお千代さんも微笑んでいる。
ジワジワ涙が溢れポロポロ零れ出す。

「……安心して、もう泣けるようになったから。ちゃんと人間に戻ったから」

ピーピーと洗濯機の呼ぶ音がする。
両手を合わせ、掌で涙を拭くとスックと立ち上がる。

「私も前へ進みます! メープル荘の皆みたいに! だから見守っていてね」

力が漲っていく。明るい未来の扉が開く。
ニッコリ笑い、私は次々と家事を熟していく。

< 146 / 165 >

この作品をシェア

pagetop