痛快! 病ンデレラの逆襲
社長の到着と共に、場は更に賑やかになる。
「何だろうこのオーラ。華があるっていうのかしら?」
「本当、オスの色気? なかなかいないのよね、こういう男」
ミミと夢子は芸術鑑賞でもするように社長を見つめる。
やっぱり社長は雌雄を超えモテる、としみじみ思う。
「奏カナさんのご子息……ご令嬢?」
「どちらでもよくてよ。この格好ももうすぐ卒業だから」
社長はニッコリ笑い「似合っているでしょう」と私の左手を持ち上げる。
「コイツには最高の指輪を贈りたかった」
「お持ちになった指輪は大切な方のものですってね」
エッ? 大切な方って……。
社長はニッコリ笑い、瞬時に応える。
「千代さんから預かっていたものだ。お前の母親から預かったと言っていた。型が古いからリフォームして婚約指輪にしてくれとお願いされていた」
この指輪が母から……。胸がジンと熱くなる。
「注文通り仕上げてくれた奏カナは最高だ。ありがとう。何度お礼を言っても言い足りないぐらいだ」
「ありがとうございます。母に伝えておきます。私もそんな風に言われるように頑張らなきゃ」
ミミは夢子の手を握り、その目を見つめ「頑張るからね」と微笑む。
「うん、私も女性が輝けるようにもっと勉強する。『千草の作るアクセサリーが似合う女性』が私の目標、私も頑張る」
ミミと夢子は手を取り合い見つめ合い、そのままキスをする。
オイオイ、皆が居るんだぞ。
「姫、俺たちもキスするか」
社長が触発され顔を近付ける。
「おバカなことを、お言いでない!」
ムニュッと社長の顔を手で覆い、させてたまるか、とその身を避ける。
「キスぐらいさせてあげなさいよ」
「そうよそうよ」
梨子と要子がクスクス笑う。
「そうよ。スキンシップは大切よ」
ミミが夢子の髪を撫でながらニコリと笑う。
まさかでしょう! 人前ですよ、ここは日本ですよ、これが普通一般人の考え方です……というのがこの方たちには通じないのだろうか?
この方々と付き合っていると、時々混乱する。
もしかしたら私の方が……何か間違っているのだろうか、と考えてしまう。
でも、普通って何だろう?
個性を大切に、と言われて随分経つが、未だに『皆一緒』が居心地良かったりする。
ウーンと唸っていると、社長が私の眉間の皺を伸ばす。
「姫、考えても分からないことは、今、考えても仕方がない。そのうち、フト気付き分かる時がくる」
この人はさり気なく私の気持ちを軽くしてくれる。
そうだ、今は美味しい鍋に集中しよう!
「ハイ! 社長。で、夢子さん、今日の〆はご飯ですか?」
「エーッ、ラーメンがいい」
梨子が異議を申し立て、その後、ご飯派とラーメン派に分かれて大論議が繰り広げられた。
よく考え……なくてもだが、何てくだらないことを真剣に討論しているのだ、と思ったが、人間とはこういう緩さが必要なのかもしれない、と人間になった私は妙に納得する。