痛快! 病ンデレラの逆襲

ちょっとお行儀は悪いが、朝食を口にする私の後ろから、お千代さんは丁寧に髪をすき綺麗に編み込む。
蝶よ花よと育てられていた幼い頃からの習慣だ。

「そろそろ美容院に行かれた方がよろしいのでは?」
「別にいい、お千代さんが綺麗にしてくれるから」

それに、美容院代が勿体ない。
それより、昨夜も食べたが豚汁がより美味しくなっている。
カレーと豚汁は二日目がより旨い! が私の持論だ。

納豆と卵焼き、それに、艶やかな銀シャリを黙々と頂き、朝食を終え、歯磨きを済ますとジャスト九時。

うん、大丈夫。間に合う!

オフホワイトのダッフルコートを着込み、「じゃあ、行ってきます」と部屋を出る。

「トイレットペーパーと豚コマ肉だけは、絶対に確保してきて下さいませ」

閉まりかける扉の向こうから、お千代さんの声が念を押す。

「ハーイ」と返事をし、鍵を掛け、一足進めるごとにカンカン鳴る鉄の階段を駆け下りる。

現住居であるメープル荘は、二階建てで部屋数は八部屋。
名前こそ横文字だが、昭和を色濃く残す四十年もののアパートだ。

私の部屋は、二階の203号室。
建物は古いが、都心に近く、2LDKと広いうえ、家賃が安い。

だが、現時点で埋まっているのは四部屋のみ。
たぶん、もう増えないだろう。
何故なら、来年の秋には取り壊されるからだ。

だから、現課題の最優先事項は、そろそろ次の住まいを見つけねば! だ。

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