痛快! 病ンデレラの逆襲
メープル荘に入居したのは、二年前。
前職を辞すると同時に社宅を出た私は、会ったことのないお千代さんの知人という人の紹介で入居した。
当初、そのあまりのボロさに、お千代さんは「お労しや、お嬢様」と言っては目頭を押さえ、さめざめと泣いた。
お千代さんこと如月千代は、我が姫宮家に代々仕える如月家最後の末裔だ。
御年、七十二歳。小柄ながらシャキッと伸びた背と合気道で鍛えた俊敏さで、年よりも十歳は若く見える。
姫宮家は十八代続く由緒正しい家柄で、祖父の代までは栄華を極めていた。
だが、世の移り変わりに、坊ちゃん育ちの父はついていけず、祖父亡き後、家督を継いだものの、たちまち家業は傾き、没落の一途を辿り、姫宮家は一文無しになった。
幸いだったのは、屋敷と土地を売ったお金で借金地獄だけは免れたことだ。
その後、母は心労がたたり病に伏せ、あっという間に亡くなった。
母を溺愛していた父も、哀しさ故からか病を患い、後を追うように亡くなった。
「せめて、父上様と母上様がご存命なら」
幾度もヨヨと泣き崩れるお千代さんに、幾度も思った。
父と母が存命でも、この状況は変わらない。
イヤ、もしかしたら、もっと最悪な状況になっていたかもしれない。
何故なら、今のこの暮らしに二人が耐えられる筈がないからだ。