痛快! 病ンデレラの逆襲

「僕、梨子さんを担当している出版社の者です」

その言葉に再びドアを開けると、男性は丁寧にお辞儀をし、名刺を差し出す。

「初めまして入口と言います。皆さんよく呼び間違えされるので、あえて言っておきます。入と口で『いぐち』と読みます。よろしくお願いします」

頂いた名刺には『KTG出版 編集部 入口圭介』と書かれていた。
どうやら本当に出版社の人らしい。

それにしても出口に入口って、殿宮と姫宮以上に凄いご縁ね、と変なところに感心する。

「それで彼女はどこへ?」

ガクリと肩を落とすその様は、どことなく叱られたワンコのようだ。
二十代だろうか? 同じ年くらい?

「はぁ、煮詰まったとかで旅に出ると、お昼過ぎに出て行かれました」
「エッ! やられた、逃げられた」

彼はその場で頭を抱え、うずくまる。

「あのぉ、大丈夫ですか?」
「……すいません。お気になさらずに」

ノロノロと立ち上がると、溜息交じりに私を気遣う。
イヤイヤ、気になるだろう、そんな風じゃ。

厄介なことに巻き込まれた、と思っていると、彼は、そうだ、とこちらに顔を向ける。

「いつ帰るとか言っていましたか、彼女」

いいえ、と首を横に振ると、全く! とブツブツぼやき始める。

「じゃあ、申し訳ございませんが、帰ってきたら彼女に内緒でコッソリ連絡を頂けないでしょうか」

あらっ? この人、意外に厚かましい?

「あの、申し訳ございません。私、今日、たまたま在宅しておりましたが、いつも仕事で遅くまでおりません。ので、お約束できかねます」

だが、敵(?)もさるもの引っ掻くもの。負けずに食い下がる。

「いらしている時、気付いた時でいいです。お願いします。この通りです」

おいおい、オデコが膝にくっついていますよ。そんなことされたら……。
結局、押しに弱い私は渋々承知した。
全く、なんてこった、だ!

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