痛快! 病ンデレラの逆襲
「あらぁ、彼に会ったの」
帰って来たばかりの要子を捕まえ、名刺を見せ、本物の名刺か確認し、無茶な願いをされた、と切実に訴える。
「入口さん、慌てたでしょう」
「それはもう、ガックリと」
「まっ、いい薬になったんじゃない」
それはどういう意味?
「原稿が煮詰まって旅に出た、なんて梨子ちゃんの大嘘。彼女、たぶん、ローズホテルでエステとかしてもらっちゃってるんじゃないかしら」
なんですかぁ、それ!
目をパチクリし、要子のニヤニヤ笑いを見つめる。
「実はね」と要子は、人差し指でお出でお出でする。
顔を近付けると、囁くように言う。
「入口さん、梨子ちゃんにホの字なの。で、梨子ちゃんもなの」
エッ! と顔を離し、今度はドングリ眼で要子を見る。
「でもね、この間も言ったように梨子ちゃん、子供が産めないでしょう」
ウンウンと頷く。
「入口さんって今、三十歳なの」
エッ! 本当に。へー、それはスゴイ! 童顔なんだ。
「だから子供もまだまだ作れる年齢でしょう。で、梨子ちゃん自分の気持ちに蓋をして彼のこと避けているってわけ」
なるほど、いろいろ複雑なんだ。
「彼も彼よ、好きならもっと強引にいけばいいものを。本当、イライラする」
それってとても哀しいお話じゃない? なのに、何故、貴女は笑っているの?
「彼女、恋に病む乙女を演じて陶酔しているの。小説のために」
「はい? 意味不明なのですが。梨子さんは入口さんのこと好きなんですよね? 演じるとは?」
要子は名刺を弾きながら、片唇を僅かに上げる。
「彼女はプロの物書きだから、常人が思ってもいない世界に住んでいる、ってことかしら」
ダメだ、もっと意味不明な話になってきた。
「彼への気持ちは本当だし、いろいろ問題ありってことも本当。私も彼女のことはまだまだ理解できない部分が多いけど、まっ、この彼とはうまくいって欲しいかな、って応援はしている」
何だか物凄く分かり難い世界だ。
とりあえず、入口さんは本物の編集者だと分かっただけでもよしとしよう! と早々、この話からドロップアウトする。