痛快! 病ンデレラの逆襲
「急にどうした? 大人しくなって」
「あっ、何でもありません。で、その鳳凰宗利さんの前で婚約者のフリをすればいいのですね」
これも人助け?
「ああ、その代わり、先日の約束に上乗せし、超の付く高級牛を食わせてやる」
「社長! 婚約者のフリ、立派に勤め上げます」
そうなのだ私は超高級牛につられてしまったのだ。
安易に引き受けたのが大間違いだった。
そう! その後、ややっこしい事態に巻き込まれ、『反省猿』君の如く、壁に手を当て項垂れる私……などその時は露ほども想像していなかったのだ。
「お前ならそう言ってくれると思っていた」
ハンドルを切る社長の顔が何故か楽しそうだ。
さっきの悲惨さは何処へ? と思ったが、それより超高級牛とはどんなだろ、と心が浮き立つ。
「で、いか風に振る舞えばいいのですか?」
「お前は何もしなくていい。というより、何もするな! 黙って側にいてくれればそれでいい」
あれっ、また酷いことを言われたような……でも、そんなの気にしない、気にしない。
「了解しました。牛のため、頑張ります」
お前は何故敬礼するのだ、と隊長のような社長の眼が言っているが、それも気にしない、気にしない。
車は街中を抜け、大通りからアーケード付きの商店街に入る。
何、ここ? シャッター商店街? でも、不思議な雰囲気のする通りだ、と車窓から通りを眺める。
街道は暖色系のインターロッキングブロックが美しく敷き詰められ、どのシャッターにも浮世絵のような絵が描かれていた。
温かでレトロな明かりが店の脇や軒を柔らかく照らし、幻想的な光景だ。
「社長、ここって?」
「セレブ商店街」
衰退した商店街ではなく、全国の老舗店や著名店が集結した商店街で、富豪ご用達の店が並ぶという。
何だか分からないが、凄い商店街ということはニュアンスで分かった。
「で、ここへは何をしに?」
「指輪を買いに」
「ハァ~? 指輪ですか」
思わず聞き返してしまった。