痛快! 病ンデレラの逆襲
「社長、綺麗ですね」
とは言うものの、やはり女性というものはキラキラに弱いようだ。
扇氏の店を辞して、助手席に座り車が発車すると、私は左手を目線に上げ、何度も薬指を見る。
陽を浴びた指輪は輝きを増し、この前社長と一緒に見た夜景と同じぐらい……イヤ、それ以上に美しく思えた。
「嬉しいか?」
「嬉しいですよ。たとえひと時でも、こんなに素敵な指輪が嵌められるのですから」
ハァ? と社長の溜息交じりの声が聞こえた。
「ひと時って何だ? それはお前の指輪だぞ。他の誰にやれ! というのだ」
ヘッ! と指輪を見つめたまま思考が停止し、代わりに「お前の指輪」がエンドレスにリピートする。
ギリギリと首を回し、社長を見る。
そして、ようやく出てきた言葉はこれだった。
「社長、貴方、バカですか!」
「どうして、お前に馬鹿呼ばわりされなきゃいけないのだ!」
心外だ! と言わんばかりに社長はアクセルを踏む。
こらこら、法定速度は守りましょう!
「だって、婚約者のフリをするのにこんな高価な品まで用意して、それを惜しげもなく私にやる? ゴミ箱にポイ捨てするようなものですよ、それ」
社長は盛大な溜息を付き、乱暴にハンドルを切ると路肩に車を停めた。
「バカはお前だ! 自分を卑下してどうする。理由はともかく、これはお前のために俺が作ったお前の指輪だ。ただ、ありがとう、と貰ってくれればいい」
怒りの眼がしだいに柔らかくなり、社長は私の左手を取ると、その薬指にソッと唇を寄せた。
エッ! 社長が指輪にキスをした……イヤ! 私の指にキスをした?
ビックリ眼で、今起こったことは何なんだ、と穴が開くほど指輪を見つめる。